この屋台からは、ステージが見えないどころか音も聞こえない。公園の奥まった位置にあるステージに反して、屋台は公園の入り口付近に密集している。
そして、どうしてこころ食堂の屋台に声をかけたのか。近くにはほかの屋台だってあるのに、その理由がわからない。迷子になったことを伝えるだけだったら、屋台にいる人ではなく歩いている人に頼むはずだ。たくまくんの身長では屋台からは死角になるし、顔が見えない相手に声はかけづらい。
「おそらく、桜餅じゃないか」
私たちが悩んでいると、一心さんがさらりと会話に入ってきた。
「桜餅、ですか?」
「ああ」
私にはどういう意味なのかわからなかったが、一心さんは結論にたどり着いたときに見せる、凜とした表情をしている。まっすぐで迷いのない、今までいろんなお客さんの悩みを解決してきたときの、あの表情だ。
一心さんがこの表情を見せると、私は期待と緊張で、胸がドキドキしてくるんだ。
「たくまくんはおそらく、桜餅が屋台で売られていることをどこかで知ったんだ。もしかしたら、職員同士の会話を聞いたのかもしれないな。佐倉さんの好物が桜餅だと知っているから、買いにいこうと考えたんじゃないか」
それだったら、うちの屋台に声をかけた理由はわかるけれど、たくまくんの態度にまだ疑問が残る。
「桜餅は確かに私の好物ですが、店長さんがなぜ――?」
「たくまくんから聞いたんだ。そして、うちで売っている桜餅を与えようとしたら、これは桜餅じゃないと言われた」
「えっ、どうしてそんな失礼なことを」
「理由はおそらく、佐倉さんならわかるはずだ」
屋台で売っている桜餅を見せると、佐倉さんはハッとした顔になった。
「あっ、これは……」
あんこを桜色の生地で巻いたごく普通の桜餅だけど、なにがわかったのだろう。
私には見えないものが見えているらしい一心さんは、保冷ケースをごそごそと探っている。
そして、どうしてこころ食堂の屋台に声をかけたのか。近くにはほかの屋台だってあるのに、その理由がわからない。迷子になったことを伝えるだけだったら、屋台にいる人ではなく歩いている人に頼むはずだ。たくまくんの身長では屋台からは死角になるし、顔が見えない相手に声はかけづらい。
「おそらく、桜餅じゃないか」
私たちが悩んでいると、一心さんがさらりと会話に入ってきた。
「桜餅、ですか?」
「ああ」
私にはどういう意味なのかわからなかったが、一心さんは結論にたどり着いたときに見せる、凜とした表情をしている。まっすぐで迷いのない、今までいろんなお客さんの悩みを解決してきたときの、あの表情だ。
一心さんがこの表情を見せると、私は期待と緊張で、胸がドキドキしてくるんだ。
「たくまくんはおそらく、桜餅が屋台で売られていることをどこかで知ったんだ。もしかしたら、職員同士の会話を聞いたのかもしれないな。佐倉さんの好物が桜餅だと知っているから、買いにいこうと考えたんじゃないか」
それだったら、うちの屋台に声をかけた理由はわかるけれど、たくまくんの態度にまだ疑問が残る。
「桜餅は確かに私の好物ですが、店長さんがなぜ――?」
「たくまくんから聞いたんだ。そして、うちで売っている桜餅を与えようとしたら、これは桜餅じゃないと言われた」
「えっ、どうしてそんな失礼なことを」
「理由はおそらく、佐倉さんならわかるはずだ」
屋台で売っている桜餅を見せると、佐倉さんはハッとした顔になった。
「あっ、これは……」
あんこを桜色の生地で巻いたごく普通の桜餅だけど、なにがわかったのだろう。
私には見えないものが見えているらしい一心さんは、保冷ケースをごそごそと探っている。