「この子が迷子になったいきさつなんですが――。私が桜まつりコンテストに出ている間、拓真には控え室で待っててもらったんです。なのに、コンテストが終わるといなくなっていて」

 そのときのことを思い出したのか、佐倉さんは眉根をぎゅっと寄せた。

「運営に電話したとき、迷子を保護する人員も足りないと言われた。きっと、控え室に待機しているはずの大人がおらず、たくまくんは簡単に抜け出せたんだろう」
「はい、おっしゃる通りです。私がちゃんとだれかに頼んでおかなかったから悪かったんです。だれかは見ていてくれるだろう、と甘く考えていて……」

 桜むすめのコンテストの最中でみんなが忙しかったことが不幸を招いた。たぶん、そこにいた大人全員が『だれかが見ていてくれるだろう』と思ってしまったんだ。

「普段がおとなしい子ですから、抜け出すとは思っていなかったんです。控え室であわてているとき、同じ商工会の職員から迷子の情報を聞いて。こころ食堂さんの屋台で保護していると知り、急いで駆けつけたんです。こんな……コンテストの格好のままですみません」

 これで、お母さんと同じ特徴の人が見つからなかった理由も、たくまくんが語ったのが仕事着のような服装だった理由もわかった。

 そもそも佐倉さんは商工会の仕事で桜まつりに来ていて、猫ネットワークを使ったときにはすでに桜むすめの衣装に着替えていたからだったんだ。

「そりゃあ、猫でも見つけられないわけよね」
「え、猫……?」
「いえいえ、こちらの話です」

 響さんは、佐倉さんに向かっていたずらっぽく微笑んだ。佐倉さんは、響さんが人並み外れた美形のオネエであることにやっと気づいたらしく、瞬きを繰り返していた。

「でも、なんでたくまくんは抜け出したのかしら。お母さんに会いたかっただけなら、ステージからこんなところまで来なくてもいいでしょ」
「そうですよね……」