女性は、着物が汚れるのにもかまわずひざまずき、たくまくんをしっかりと抱きしめる。肩が震えているのは、もしかして泣いているから……?
 迷子になったたくまくんをどれだけ心配していたのかがその光景からわかって、私は女性から目が離せなかった。

女性は立ち上がって涙をぬぐったあと、たくまくんの手を引いて屋台の前にやってくる。準グランプリだけあって、すっとした立ち姿のキレイな人だった。

「あの……。拓真を保護してくださっていたんですよね。本当にありがとうございます」
「は、はい。あの、たくまくんのお母さんですか?」

 私たちの戸惑いの表情に気づいたのか、彼女は自分の着物に目をやって恥ずかしそうな表情になった。

「あ……、ごめんなさい。こんな格好じゃ、不審でしたよね。私、商工会の佐倉と申します。拓真の母親です」

 佐倉さんが一心さんに名刺を差し出す。そこには、地元商店街の表記があった。

「桜むすめのコンテストに応募者が少なくて、運営のほうで補充しなければならなかったんです。女性職員の中でいちばん若いからと、私が出ることになってしまって」
「そうか……。桜まつりの運営のメインは、商工会だったな」

 佐倉さんには、屋台の中で事情を聞くことになった。椅子を差し出すとたくまくんがぐずり、抱っこをしながら座るかたちになる。長時間気を張っていて疲れたのか、たくまくんは佐倉さんの膝の上でうとうとと船をこいでいる。

「――よかった」

 すっかり安心しきった様子のたくまくんを見つめながら、ミャオちゃんがつぶやいた。たくまくんのお母さんについて、悪い報告に考えてしまったこと……。ミャオちゃんが悪いわけじゃないのに、責任感を感じていたのだろう。ホッとしたのが、ミャオちゃんの空気からわかる。

 響さんがウーロン茶を渡し、一心さんがうながすと、佐倉さんはお礼を述べてから話し始めた。