桜むすめのコンテストが終わったのか、屋台の前にも人気が戻ってきた。そちらは一心さんと響さんで対応して、私とミャオちゃんはたくまくんのそばについている。

「――そうだ。たくまくん、桜餅好き?」

 なんのお菓子が好きかで盛り上がっているとき、まだ桜餅をあげていないことを思い出した。たくまくんは、和菓子は好きだろうか。

「うん、すき! ママがね、よくかってきてくれるの!」

 無邪気な笑顔を見せるたくまくん。胸がズキッと痛んだけれど、悟られないように無理やりにこっと笑った。

「そっか。お母さん、桜餅が好きなんだね」

 一心さんに了解をとって、桜餅をひとつ、たくまくんに渡す。

「じゃあ、おひとつどうぞ」

 だけど、受け取ったたくまくんは首を横に振った。

「これ、さくらもちじゃない」
「え?」
「ちがうの。ママのじゃない」
「違う……?」

 桜餅じゃないって、どういうことなんだろう。
 ミャオちゃんと顔を見合わせたとき、切羽詰まった叫び声が私の耳に響いた。

「拓真!」

 たくまくんを含めた私たちは、声のする方向をいっせいに向く。
 はあはあと息を切らせた女性が、屋台の近くからこちらを見ていた。女性のただなぬ様子と外見から、通りすぎる人たちも『なにごと?』と視線を送っている。

「ママ!」

 その中で唯一動いたのがたくまくんだ。半泣きの声で叫んで、女性のもとに駆けていく。

「えっ、お母さん? あの人が?」

 私が驚いたのは、その女性がたくまくんに聞いたのとはまったく違う格好をしていたからだ。

 桜の柄の入ったピンク色の着物に、藤色の帯。まとめ髪にはかんざし。そして肩からかけたタスキには、『桜むすめ準グランプリ』と書いてある。年齢も、まだ二十代半ばくらいに見えた。

「たくまくんのお母さんが、桜むすめ? どういうこと?」

響さんと同じで、私も混乱していた。