「あの。さっきたくまくんにお母さんの服装を聞いて、少し違和感があったんです。なんだか仕事に行くみたいな格好だなって……。もしかしたら、休みの日に急にお仕事になってしまって、その間だけ桜まつりで遊ばせておくつもりだった、なんてことありませんか……? お仕事が終わったら、ちゃんと迎えに来るつもりで……」

 もしそうだとしても置き去りにされたことには変わりはないが、迎えに来てくれるはずという可能性にすがりたかった。

「そうだな……。おむすびの違和感も気になるが、もしたくまくんが近所の子なら、子どもとはぐれたから家に大人を呼びにいったのかもしれない。ひとりで探すのは難しいと判断して」
「あ、それはありそうですね! ちょっとおうちの場所を聞いてきます」

 一心さんの推理に希望を求めたのだが、たくまくんからは「ママとは、くるまできた」という答えが返ってきた。

「――車を使う距離なのに子どもを残して一時帰宅するのは、あまり考えられないわね」
「そう、ですね……」
「大丈夫よ! ほら、実はあたしみたいにオネエで、お母さんは男っていうのもあるかもしれないじゃない? それだと、猫にはわからないかもしれないし」

響さんが冗談を言って和ませてくれようとするが、ミャオちゃんは唇をぎゅっと引き結んだまま私の手を強く握る。

「ミャオもおむすびも、そんなに深刻にならなくて大丈夫だ。それに、俺たちがこんな顔をしていたらたくまくんが不安がるだろう。桜むすめのコンテストが終われば運営の人も来てくれるだろうし、今はたくまくんと一緒に信じて待とう」
「……はい」
「……わかった」

 芯のぶれない、どっしりかまえた一心さんの言葉が、まぶたが熱くなるくらい頼もしかった。