「ん」

 ミャオちゃんが満足そうにうなずいて、男の子を屋台の中まで連れてくる。
 以前も、堀くんという小学生の男の子と友達になっていたし、ミャオちゃんは困っている子どもを放っておけないのかもしれない。子どものほうも、ミャオちゃんに対してはすぐに警戒を解くのは不思議だ。猫と子どもとミャオちゃんには、なにか通じるものがあるのかも。

「はい、ぼく。オレンジジュースは好き?」

 響さんが紙コップに入れたジュースを渡す。椅子に座らせてそれを飲ませると、少し落ち着いたみたいだった。興味津々といった様子で、屋台の内部をきょろきょろと観察している。大人四人が入るとあまり余裕がないくらいのスペースだけど、子どもの目には秘密基地やキャンプのテントのように見えているのかも。

 一心さんは、その子をちらちら見ながらそわそわしている、おそらく、一見無愛想に見える外見と話し方を気にして、自分から子どもに話しかけにいけないのだろう。小学生には『かっこいい』と人気の一心さんだが、この子はまだ就学前っぽいし。

 小さい子にも一心さんの優しさはわかると思うんだけど、それはきっと時間がかかることで、今この状況には向いていない。

「おむすび。その子から事情を聞けるか? 俺だと怖がらせてしまいそうだから、頼む」

 諦めたように眉間を揉んだ一心さんが、難しい顔で私に頼んできた。

「あっ、はい。わかりました」

 ミャオちゃんにも協力してもらって、質問ではなく雑談、というていで情報を集めていく。迷子の子どもに『お母さんはどこ?』『はぐれちゃったの?』とストレートに質問するとパニックになってよくない、と聞いたことがあったからだ。

 男の子は五歳で、名前はたくまくん。お母さんとふたりで桜まつりに来た、ということまでわかった。それなら、お母さんの特徴がわかれば捜索できるかも。