「……キレイ」
「ほんと、キレイだね」

 人がたくさんいても、キレイなものはちゃんとキレイだ。お客さんたちがみんな笑顔のせいか、朝の神秘的な美しさとは違って、牧歌的な光景に思える。特設ステージから聞こえてくるのど自慢の歌声も、なんだかホッとする。

「ミャオちゃんは、なにか食べたいものある?」
「……わたあめ」
「じゃあ、探してみようか」

 桜まつりを隅々まで見て屋台を物色したあと、牛串とキュウリの一本漬けを人数分と、缶入りのノンアルコールビールを買った。〝片手でさっと食べられるもの〟という注文は満たしているだろう。ひとつだけ買ったわたあめは、歩き回っている間にミャオちゃんがぺろりと平らげてしまった。

「ただいま戻りました。休憩ありがとうございます」
「早かったな。あんまり休めなかったんじゃないのか? どこかに座ってゆっくりしてもよかったんだが」

 食堂の屋台に戻ると、調理台を拭いていた一心さんが気遣わしげな表情を見せた。

「いえ、大丈夫です。桜まつりは満喫できたし、ミャオちゃんも早く戻ってみんなで食事したいみたいだったから」
「そうか。ちょうど客も途切れたところだし、いただくか」

 買ってきたものを渡すと、響さんは牛串と一本漬けを手に取って相好を崩した。

「あら、ちゃんと気が利くチョイスじゃない。おむすびにしては、わかってるわあ」

 響さんが好きそうなものを考えて、ノンアルコールビールに合いそうなおつまみっぽいフードを選んだのだ。

「でもこれって、辛党の好みでしょ。おむすびとミャオの食べたいものは買えたの?」
「はい、ミャオちゃんにはわたあめを。でも、私の食べたかったものは屋台に売ってなくて……」

 屋台は全部見て回ったつもりなんだけど、見落としがあったのだろうか。

「なにが欲しかったんだ?」

 少しがっかりしている私に一心さんがたずねた。