「おむすび。もうすぐ、行列ができそう」
「え、ほんと? ミャオちゃん」
「うん。このあたりの人、増えた気がする」

 確かに、じわじわと人出が多くなっている感じではあるけれど……。猫と意思疎通できるくらいだし猫っぽいところがあるから、ミャオちゃんは周りのちょっとした変化にも敏感なのだろう。猫は雨が降るのがわかるというし。

「ミャオは勘が鋭いからね。もうすぐ十一時になるし、気を引き締めたほうがいいかもしれないわよ」
「そうだな」

 その後、お昼が近づくにつれて行列ができていき、ピーク時は何組並んでいるのかわからなくなるほどだった。役割分担がうまくできていたからうまくさばけたが、一心さんとふたりだったら大変だっただろう。響さんとミャオちゃんがいてくれてよかった。

「ふう。だいぶ客足も落ち着いてきたわね」
「そうだな。注文も、ちらし寿司より桜餅が多くなってきた」

 腕時計を見ると、もう午後二時。みんなそろそろおやつが食べたくなる時間だ。

「おむすび、今のうちにミャオと休憩に行ってきていいぞ。ついでになにか食べるものを買ってきてもらえるか?」
「いいんですか? ありがとうございます」

 一心さんの提案は正直ありがたかった。お手洗いにも行きたかったし、朝ごはんを食べたきりでお腹が鳴りそうだったのだ。

「休憩っていうか、おつかいよ、おつかい。片手でさっと食べられるようなものがいいわね。あと、ノンアルコールビールがあったらお願い」
「わかりました。ミャオちゃん、行こうか」

 ミャオちゃんと手をつないで屋台の裏から出ると、ザアッと吹いた春風がたくさんの桜の花びらを運んできた。足下にも散った花びらで絨毯ができているし、視界全体がふんわりとしたピンク色に染まる。