一心さんは、これを食べておやっさんに昔のことを思い出してほしかったのかな、と思ったとき。一心さんは、前振りもなにもなくいきなり確信をついた。

「おやっさん。おやっさんは今、長く生きる気がないだろう」
「……えっ」

 口から心臓が飛び出そうになり、思わずおやっさんを見て固まってしまう。おやっさんも、ぽかんとした顔で一心さんを見つめていた。まさかこんなにストレートにたずねられるとは思っていなかったのだろう。

「先週、胃が痛いと言って押さえていたのも、胃ではなくて心臓じゃないか? なにか大きな病気を……俺たちに隠しているんじゃないのか?」

 一心さんの切迫した声を聞いて、いつもより説明が少ないのは一心さん自身に余裕がないからなんだ、と気づいた。

「相変わらず一心は、勘が鋭いなあ……」

 ため息まじりのおやっさんの苦笑を聞いて、外れてほしいと思っていた予想が当たっていたことを知った。

「なんの病気なんだ?」
「狭心症だよ。手術を受けたほうがいいと言われたんだが、するつもりはない。今は命に関わる心配はないけれど、このまま放置すれば……」

 あのときお手洗いで飲んでいたのは、胃薬ではなく狭心症の薬だったのか。

「どうしてなんだ。治る可能性があるのに……」
「一心たちとまわったリスト、亡くなった妻と作ったものなんだ」

 おやっさんはその質問には答えず、言葉を重ねた。

「亡くなったのは一年前だが、長いこと闘病をしていてね。一心と出会ったのも、そんなときだった」
「そんなこと、一言も……」
「店にいるときに、一心に気を遣わせたくなかったんだ。ただ、師匠でいたくて黙っていた」

 一心さんは、ぐっと唇をかみ、うつむいた瞳に陰を落とした。