「おむすび、気づいていたかわからないが……」

 帰り道、途中でおやっさんと別れたところで、一心さんが深刻な声で切り出す。

「どうしたんですか?」
「二件目のパンケーキ、おやっさんはほとんど手をつけてなかった。俺たちふたりで、ふたつのパンケーキを完食したから腹が苦しいんだ」

 それは、私も少し感じていた。おやっさんはほとんどフォークを動かしていなく、お冷やばかり飲んでいた。ただ、私でも厳しい量だったので気にしてはいなかったのだ。

「それは……おやっさんのほうがお歳ですし、こってりした生クリームが厳しかったんじゃ?」

 自分で言ってハッとする。だったら、一心さんが解散を訴えたときに渋ったのはおかしくないだろうか。パンケーキをほとんど食べられなかったのに、夕飯の店に行きたがったのはどうしてだろう。

「すまない、余計なことを言った」

 私の表情が硬くなったことに気づいて、一心さんは口元にかすかに笑みを浮かべた。

「甘い物は無理だが、夕食なら食べられると思ったのかもしれないしな。俺が気にしすぎなのかもしれない」

 お店に来るお客さまに訳ありの人が多いから、一心さんはささいな違和感でも気にしてしまうのかも。

「はい。また来週もありますし、今度はシェアがうまくいくといいですね」
「そうだな」

 そう、ほがらかな雰囲気に戻って家に帰ったのだが、なぜか私の胸からは、小さくて透明な針が抜けなかった。