「おはよう。ふたりとも早いなあ」

 ベージュのポロシャツをを着たおやっさんのお腹は、茶色のズボンの上にどっしりとのっている。同じベージュの、かちっとした中折れ帽がオシャレだ。

「おやっさん、今日は昼食を食べに行くのか?」

 一心さんがたずねると、おやっさんは汗をハンカチで拭きながら「いや」と首を横に振った。

「カフェで昼飯を食べてから、おやつにパンケーキ。そのあとどこかで時間をつぶして、ディナータイムになったら別の店で夕食だな」
「えっ」
「一日コース、だったのか……?」

 年配の人だから短時間のお出かけだろうと甘く見ていた。おやっさんがこんなに健啖家だったなんて。

「おむすび、ちゃんと確認しておかなくてすまない。大丈夫か?」

 一心さんが顔を寄せてこそっと耳打ちする。

「大丈夫です。全部食べられるか不安ですけど」

 そのあたりは、メニューを選んだりみんなシェアすれば大丈夫だろう。
 ……と、そう思っていたのだが、私は甘かった。

 カフェでの昼食をおいしくいただき、事件が起きたのは二件目のパンケーキ。さすがに、三人でふたつをシェアすれば大丈夫だろうと注文したのだが、来たのは生クリームが山盛りのパンケーキ。

 私と一心さんは目をむいて驚いていたのだが、おやっさんは知っていたのか動じずにこにこだ。ふわっふわのパンケーキとこってり生クリームの組み合わせは非常においしかったのだが、いかんせん胸焼けがひどい。

「おやっさん、さすがに今日はこれで終いにしないか……? 夕飯を食べられる自信がない」

 パンケーキ屋を出たところで、一心さんがお腹をさすりながらそうおやっさんに告げる。

「私も、ちょっと胃もたれが……」

 ふたりで訴えたのだが、おやっさんは、「うーん、でもなあ……」と納得いかない様子。

「そんなに急がなくても、来週もまたあるじゃないか」

 一心さんがそうなだめてやっと、今日は解散する流れになった。