定休日は曇り。夏の日射しもやわらいで、街歩きにはちょうどいい気候だった。
 半袖のブラウスとスカート、冷房対策にカーディガンを手に持った私は、こころ食堂の裏口の前で、おやっさんより先に一心さんと合流する。

「あっ、おはようございます」
「ああ、おむすび。おはよう」

 一心さんは、半袖の黒いTシャツと濃いめの色のジーパン。いつもの私服通り、シンプルな無地のアイテムでまとめている。

 私は、日陰にいる一心さんの隣に並んだ。腕が触れそうに近くて、少し離れる。こうして自分の腕と比べると、一心さんは夏でけっこう焼けたんだな。毎日見ていると気づかなかった。

「おむすび」
「はっ、はい」

 一瞬、一心さんの腕のことを考えていたのがバレたかと思って心臓が跳ねた。

「暑くないか? 水分はちゃんと摂ったか?」
「あっ、はい。大丈夫です。ペットボトルを凍らせたものを、バッグに入れてきましたから。あと、塩タブレットも」

 バッグの中のペットボトルとタブレットを見せる。一心さんは「そうか」と表情をやわらげた。

 一年前の夏、勤務中に熱中症で倒れてから、一心さんは私の体調をよく気遣ってくれる。
 それがうれしくもあるのだけど、いつまでも心配をかけているのが申し訳なくもあり、むずむずするような気持ちだ。だけど、一心さんの優しさに触れると心があったかくなるのは、いつもと同じ。

「それにしても、食事をするなら夕方くらいだと思っていたのに、待ち合わせ時間が早いな」
「そうですね……。食べたいものがランチメニューなのでしょうか」

 待ち合わせ時間は、午前十時半。近くのお店に行くとして、着くころにはランチのオープンに間に合う時間だ。
 腕時計を見ていたら、表口のほうからやってきたおやっさんが、ひょっこり顔を出した。