「いい? おむすび! チャンスがあったら告白しなさいよ! まったく、のんびりでいいとは言ったけれど、私が話を聞いてから二ヵ月以上もあったのになんにもしていないなんて……。あんたを甘く見てたわ」
「その……。なかなかタイミングがなくて……」

 母が入院したり、身の回りがごたごたしていたこともあるけれど、いちばんの理由は、職場では告白するという雰囲気にならないことだ。出勤して、仕事して、退勤して。その間一心さんとは話すけれど、仕事のことがメインになるし、話を切り出すタイミングがない。

「それはわかるわよ。ふたりだけの従業員だしね。だからこそ、ここで降って湧いたチャンスを活用しなさいってこと!」

 サングリア風にカットフルーツが入ったカクテルを飲むと、キウイが口に入った。その酸味に、眉根が寄る。

「ちょっと、そんな難しい顔しないでよ。いい雰囲気になることがあったら、そのチャンスを逃さないようにすればいいのよ」
「いや、今のはキウイが……」

 あわてて否定して、ふと黙る。いい雰囲気って、どうやって作ればいいのだろう?
 店主と従業員、という立場が長すぎて、好意をアピールする方法さえわからない。

「ひ、響さん。なんだか無理そうに思えてきました」
「あんたは、考えすぎないほうがいいかもね……」

 泣きそうな気持ちで告げると、響さんは呆れたようにため息をついた。

「とりあえず最初は、おやっさんに付き添うことだけ考えてればいいわよ。まあ、回数をこなしているうちになんとかなるでしょ。……たぶん」

 響さんがぼそっとつぶやいた『たぶん』に一抹の不安を覚えながら、明日はとりあえず、おやっさんをエスコートできるようがんばろうと思った。