「料理人だから、話題になっている食べ物には興味があるさ。ただ、こんなおじさんひとりでは入りにくい店もあってなあ。そこで、一心に一緒にまわってもらおうかと」
「俺がか? それは、おやっさんひとりで入るよりもハードルが高い気がするんだが……」
「え? そうなのか」

 うーん、と黙り込むふたり。
 どうしよう。私ならこの問題の解決策を提示できるのだが、初対面のお客さまに対してずうずうしいと思われないだろうか。

「やっぱり、女の子がいないと難しいのか……」

 困った声を出すおやっさん。
 やっぱり、黙っていることはできない。一心さんはたぶん、自分からは言い出さないだろうし。
 ええい、ままよ。どう思われても断られても関係ないや。

「あの……。そういうことでしたら私も同行しますか? もし迷惑じゃなければ、ですが」

 遠慮がちに切り出すと、ふたりが同時にぐるっと私のほうを向いた。

「本当かい?」
「おむすびが一緒ならどこでも入れそうだが……。いいのか?」

 ふたりとも、迷惑はしていない様子でホッとした。

「はい。私も以前から、いろんな飲食店に言ってみたいと思っていたんです。でも、ひとりではなかなか勇気が出なくて」

 食に興味が出てきてから、以前より外食に行くようにはなったのだが、近所のお店やよく行くお店に行動範囲が決まってしまう。

 話題の店や新しい店をチェックしてSNSに写真をのせている友達を『すごいなあ』と見ているタイプだ。ひとりでオシャレなお店に行っても、そわそわして楽しめなそうで、新しい挑戦ができない。

 だから、一心さんとおやっさんが一緒なら私も心強い。なんといっても、ふたりとも食のプロだし。