「おやっさん……」

 やっと声を発した一心さんは、自分を責めるように唇をかみしめていた。

「謝らないでくれ、一心。俺が悪いんだから」
「いや、違う。おやっさんは」

 カウンターに乗り出す一心さんの言葉を途中で制して、おやっさんは首を横に振った。

「違わないさ。報告と連絡くらいすればよかったんだ。それは本当に俺が悪い」

 第三者の私も、泣きそうになっている。連絡を取れなかったおやっさんと、心配していた一心さん。どっちの気持ちもわかるから、苦しい。
 でも、降りつもった重い空気を振り払ったのもまた、おやっさんだった。

「もう立ち直ったんだから、しんみりしないでくれ。今日はこのことを一心に謝りたくてここに来たんだ。あと、頼みたいことがあってね」

 ぱん、と手を叩き、恵比寿さまのような笑みを見せるおやっさんと、そう簡単には表情の切り替えができず戸惑っている一心さん。

「……頼み?」
「家の中でじっとしているうちに、やりたいことや食いたいものも出てきてなあ。ほれ、こんなふうにメモにまとめているんだ」

 おやっさんがズボンのポケットから出した小さいメモ帳の表紙には、こう書いてあった。

「『食べたいものリスト』……?」

 おやっさんが、カウンターテーブルに開いて置いたメモ帳には、食べたいものや行きたいお店が書いてあり、新聞記事が貼り付けてあったり地図が書いてあったりした。そんなリストが、ページをめくってもめくってもびっしりある。

「……すごい量だな。それになんだか、おやっさんらしくないものも混じっているんだが」

 メモの中には『ホイップたっぷりのふわふわパンケーキのお店』や、若い子に人気のカフェの名前もある。