「一心、元気だったか?」
「おやっさんこそ、今までどうしていたんだ。連絡もなかなか取れないし、一年以上、ここにも来ないで……」
「いやあ、心配かけて悪かったなあ。俺のほうでもいろいろあってな」
一心さんが『おやっさん』と呼ぶその人は、つるつるした頭をなでながら人のよさそうな笑みを浮かべる。
穏やかな雰囲気と丸い顔、どっしりした体型が、なんだか七福神の恵比寿さまみたいだ。
「とりあえず、座ってくれ。すぐになにか出すから。注文は――」
「〝おまかせ〟で頼む」
「わかった」
おまかせの合い言葉を知っていて、かなり一心さんと親しそうなこの人は、だれなんだろう。
常連さんという様子でもないし、と想像していると、一心さんがお客さまを引き連れながらこちらに来た。
「おむすび。悪いが、あの人も一緒にカウンターに座ってもらってもいいか?」
「はい、もちろんです。一心さんのお知り合いですか?」
たずねると、一心さんは「ああ、そうか」とハッとする。
「おむすびはまだ直接顔を合わせたことがなかったんだな。おやっさんは、まごころ通り一帯の土地を持っている人で……俺にこの店を譲ってくれた人だ」
「えっ、そうなんですか!」
そうだった。出会った最初の日に、響さんに説明を受けたのだ。まごころ通りの地主さんが変わり者で、訳ありの人ばかりにテナントを貸すから、商店街に変な店主ばかり集まると。
そして一心さんからはお父さんと和解したころに、こころ食堂の始まりを聞いた。一心さんが雇ってくれる店を探して放浪していたころ、この場所で食堂を開いていたおやっさんに出会ったこと。心がホッとするようなごはんを出してくれ、店で雇ってくれたこと。
おやっさんが引退するときにこの店舗を譲り受けて、こころ食堂と名前を改めたこと。
その、一心さんにとっての〝恩人〟が、この人なんだ。それだけではなく、寿司職人だった一心さんが『食堂を開こう』と思ったきっかけの人。
「おやっさんこそ、今までどうしていたんだ。連絡もなかなか取れないし、一年以上、ここにも来ないで……」
「いやあ、心配かけて悪かったなあ。俺のほうでもいろいろあってな」
一心さんが『おやっさん』と呼ぶその人は、つるつるした頭をなでながら人のよさそうな笑みを浮かべる。
穏やかな雰囲気と丸い顔、どっしりした体型が、なんだか七福神の恵比寿さまみたいだ。
「とりあえず、座ってくれ。すぐになにか出すから。注文は――」
「〝おまかせ〟で頼む」
「わかった」
おまかせの合い言葉を知っていて、かなり一心さんと親しそうなこの人は、だれなんだろう。
常連さんという様子でもないし、と想像していると、一心さんがお客さまを引き連れながらこちらに来た。
「おむすび。悪いが、あの人も一緒にカウンターに座ってもらってもいいか?」
「はい、もちろんです。一心さんのお知り合いですか?」
たずねると、一心さんは「ああ、そうか」とハッとする。
「おむすびはまだ直接顔を合わせたことがなかったんだな。おやっさんは、まごころ通り一帯の土地を持っている人で……俺にこの店を譲ってくれた人だ」
「えっ、そうなんですか!」
そうだった。出会った最初の日に、響さんに説明を受けたのだ。まごころ通りの地主さんが変わり者で、訳ありの人ばかりにテナントを貸すから、商店街に変な店主ばかり集まると。
そして一心さんからはお父さんと和解したころに、こころ食堂の始まりを聞いた。一心さんが雇ってくれる店を探して放浪していたころ、この場所で食堂を開いていたおやっさんに出会ったこと。心がホッとするようなごはんを出してくれ、店で雇ってくれたこと。
おやっさんが引退するときにこの店舗を譲り受けて、こころ食堂と名前を改めたこと。
その、一心さんにとっての〝恩人〟が、この人なんだ。それだけではなく、寿司職人だった一心さんが『食堂を開こう』と思ったきっかけの人。