ミャオちゃんの目線の方向、棚の前の平台に視線を移すと、青空の下、草むらに座って寄り添っている制服姿の女の子と猫のイラストが目に飛び込んできた。

『ひとりぼっちの猫のはなし 優結』

 優しいタッチの表紙イラスト。おかっぱの後ろ姿と白黒の猫は、どことなくミャオちゃん本人と豆大福に見える。

「うわあ……。たくさん積んであるよ、ミャオちゃん!」
「う、うん」

 ミャオちゃんは震える手を伸ばして、自分の本を一冊、手に取る。そしてそれを大切な宝物のように胸に抱いた。

「……買って帰る」
「えっ。でもミャオちゃん、まだ家に見本誌があるんじゃなかったっけ」

 作者には、発売前に本が何冊か送られてくるらしい。私もすでに、ミャオちゃんから一冊もらっていた。まごころ通りのメンバーに配って、お母さんである優里さんにも郵送したらしい。『速達でよろしくね』と頼まれたと聞いたときは、娘の本が出たことがよっぽどうれしいんだろうな、とほっこりしてしまった。

「ある。……でも、買いたい」
「そっか。私も買おうかな」
「おむすびも?」

 積まれているいちばん上の本を取ると、ミャオちゃんが驚いたように私を見た。

「うん。なんか、ちゃんとお金を出して本屋さんで買いたいなって」

 並んでいる本を見たら、この小説をスマホで読んだときの気持ちや、今までのミャオちゃんの努力や成長――、いろんなことが胸に浮かんできて、素直にそう思えたんだ。

「……ありがとう、おむすび」

 ふたりでレジに向かって、店員さんにカバーをつけてもらい、本屋を出た。胸に抱えているのは本だけど、焼き芋を買ったときみたいに胸がぽかぽかあたたかい。

 ミャオちゃんは大きな仕事をなしとげ、響さんと白州さんの仲も順調で、四葉さんは柚人さんと仲睦まじい新婚生活を送っている。

 みんなそれぞれ、一歩前に踏み出しているんだなあとしみじみ感じていた、晩夏。私はこころ食堂の始まりに深く関わった〝その人〟と初めて出会うことになる。