私はあらためてお礼を述べて頭を下げたのだが、一心さんは静かに首を横に振った。

「いや、この思い出料理を再現できたのは、おむすびの力だろう」
「え……。でも私だけじゃ、カレーがハヤシライスだって気づくことすらできませんでした」
「そこから先、おばあさんの工夫には、おむすびじゃないと気づけなかった。お母さんに思い出のカレーを食べさせたいという思いやりの気持ちがあったから、料理を完成させられたんだ」

 思いがけない言葉に、吐き出す息が震える。
 私が、一心さんの力ではなく自分の力で、思い出ごはんを再現できたの? ほんとに?

「成長したな、おむすび」

 一心さんは柔らかい笑顔で、私の肩を叩いてくれた。
 以前のように頭ではないけれど、それは久しぶりに感じた一心さんの手のひらだった。

 母にも、同じように褒められた。同じ言葉のはずなのに、泣きたいような、今すぐ一心さんに抱きつきたいような、この気持ちはなんだろう。

「あ、ありがとうございます。私、レジの準備してきますね」

〝好き〟の気持ちが今にも形を持って自分から飛び出しそうで、私はあわてて一心さんに背を向けた。

 なかなかしずまってくれない心臓を押さえながら、この気持ちを一心さんに伝える日は近いのかもしれないと、感じている自分がいた。