母は、涙声になっていた。本当はこう言いたかったのかも。『おばあちゃんが亡くなってから、秘密にされていた愛情に気づけるなんて』って。

「最初は心配していたけど……。食堂で働いていること、あなたにとってすごく意味のあることだと思う。すごく成長したわね、結」

 しんみりした声で告げられて、私まで目頭が熱くなってきた。

 私が一年半前のあの日、こころ食堂に出会ったことが、おばあちゃんの思い出の味を再現したことにつながっている。

 料理ができない私が、こころ食堂で働くことに意味はあるのかな、役にたてているのかなって思ったときもあった。

 でも――、ちゃんと意味はあったんだ。それは今、お皿の上でほかほかと湯気をたてている。

「お母さん……。ありがとう」

 その後、ふたりでスプーンを持って、にせものカレーを食べた。私は、ハヤシライスのルーと具が意外に合うことに驚いて、母は思い出と同じ味だと感激していた。

 お鍋いっぱいにたくさん作ったにせものカレーは、次の日のお昼――帰る直前のごはんにも母と食べた。残ったぶんは、『冷凍して少しずつ食べることにするわ』と母はうきうきした様子で教えてくれた。

 冷凍したぶんがなくならないうちに、また帰省できたらいいなと思っている。そのときはまた、お鍋いっぱいのにせものカレーを作ろう。四葉さんと藤子さんのお子様ランチみたいに、これからは私と母で、新しい思い出を足していけたらいい。カレーにちょっとずつ、新しいスパイスを足すみたいに。