「お母さん、できたよ」

 ダイニングテーブルの上に料理を並べて、母を呼ぶ。ランチョンマットにスプーンとフォークが置かれ、スープとサラダが並べられたテーブルを見て、母は軽く目を見開いた。

「去年、夏野菜カレーを作ったときはお味噌汁だったのに、今日はコンソメ味の野菜スープなのね」
「えっ、そうだっけ」

 言われてみれば、私がカレーを作って、お母さんにお味噌汁を作ってもらったような気がする。一年前はまだ、カレーと汁物を同時に作ることもできなかったのか。

「そうよ。お母さんも、カレーだからスープにするなんて発想なかったもの。だから今日は驚いちゃった。料理がうまくなっただけじゃなくて、そういうところまで気を配れるようになったのね」

そんなふうに褒められると、照れる。ふにゃりとなってしまった口元を隠すように、私はしゃもじを持って炊飯器に向き合った。

「カレーは、今よそってるから。座って待ってて」
「はいはい。料理から配膳までやってもらえるなんて、こんなぜいたくしていいのかしら」
「怪我人なんだから、甘えていいんだよ」

 私は今日までしか手伝えないんだし、と言おうとして、やめた。なんだかしんみりしてしまいそうだったから。

「はい、お待たせ」

 たっぷりよそったカレー皿をふたつ、テーブルの上にのせる。オレンジ色のその料理を見て、母は驚きの声をあげた。

「これ……! おばあちゃんのカレーにそっくりよ!」
「やっぱり? よかった」
「結、これ、どうやって作ったの?」
「ふふ、実はね」

 ひと呼吸おいた私を、母が期待と緊張の眼差しで見つめる。

「これ、カレーじゃなくてハヤシライスなの」
「えっ……。ハヤシライス!? だってこれ、具がまんまカレーじゃない!」

 お皿によそられた、牛肉と玉ねぎだけじゃなく、ニンジンもジャガイモもごろごろ入ったハヤシライス。そうなのだ、実はこの具材が、おばあちゃんオリジナルの部分だったのだ。