お皿からはみ出す、焼きたての大きなナン。チキンのかたまりがごろごろ入ったバターチキンカレーに、マンゴーラッシー。セットのサラダ。メニューに載った写真を見て、私は「わあ」と小さく声をあげる。

 インド人らしき店主が営むカレー屋さんは、驚くほど安かった。ランチセットにラッシーをつけても千円しないし、ナンはおかわりし放題だ。

「なんか、お母さんとこういう店でごはん食べるのって初めてかも」

 とてもフレンドリーな店員さんに注文を終えて、おしぼりで手を拭きながら店内を見回す。もともと和食レストランだったところを改装したのか畳の座敷に通されたが、インドっぽい内装と妙にマッチしている。足を伸ばせるのもうれしい。

「そういえば、そうね。外食のときはいつもファミレスだったし」

 地元は田舎なのであまり選択肢がないというのもあるけれど、男の子がいる家庭のようにラーメン屋や焼き肉屋に行くということもなかった。

「お母さんは、外食とかお茶とか、行ってるの?」
「行ってる、行ってる。婦人会の人たちとも行くし、職場の主婦メンバーでも行くし。地元にできたカフェやレストランの情報がいちばん早いのって主婦だと思うわ」

 それを聞いてホッとした。私は大学に入ってから、はやりのカフェやイタリアンレストランにも友達と行くようになったし、働き始めてからはひとりでも行くようになったけど、母にそういった楽しみはあるのか不安になったのだ。

「結に心配されなくても、お母さんはお母さんでちゃんと楽しくやってるんだから、心配しなくて大丈夫よ」

 バレてる。私の考えることなんて、付き合いの長い母にはお見通しだったようだ。

 しばらくすると、注文した料理が来た。テーブルの上に置かれたナンは、写真で見るよりもずっと大きい。大人の顔ふたつぶん、いや、三つぶんくらいはあるんじゃないだろうか。これをおかわりできるのはカレー好きな猛者か、すごくお腹がすいている人くらいだろう。