手術も無事終わり、その後の経過も順調で、母は予定通り五日間の入院で退院することになった。

「お母さん、お昼ごはんどうする? せっかくだし、このへんでおいしいもの食べて帰る? 片手でも食べやすいもので」

 入院するときに持ってきた荷物をバッグに詰めながら、たずねる。母は入院着から普段の服に着替えずみだ。片手でも着替えやすいように、前開きのブラウスを持ってきた。

「そうねえ。作るのもまだ大変だし、病院食にも飽きたから食べて帰ろうか」
「なにか、食べたいものある?」

 いつもだったら『ファミレスでいい』という返事が返ってくるところだが、母の答えは意外なものだった。

「カレーかな。病院食で甘口カレーが出てね、子どものころお母さんが作ってくれたカレーを思い出しちゃったの」
「おばあちゃんが?」
「そうなの。お母さん、大人用の甘口カレーでも辛くて食べられない子どもでね。子ども用のレトルトカレーとも違う、すごく甘いカレーを作ってくれていたのよ。色も茶色っていうか、オレンジ色に近い感じで」

 そうだったのか。私がおばあちゃんに作ってもらったカレーは普通だったから知らなかった。お母さんの子ども時代の思い出の味なんだから、知らなくて当然だけど。

 甘くて、オレンジ色。もしかしてそれって、バターチキンカレーみたいなものなのだろうか。初めて食べたときは、その甘みにびっくりしたっけ。

「お母さん。それだったらインドカレー屋さんにしない? ナンなら片手でも食べやすいし」

 確か、病院の近くにもあったはず。お母さんにそう提案すると、ふたつ返事でうなずいた。