「そこまで考えるんだったらあの時間にかけたほうが楽だったんだもの」
「うん、そうだよね……。でもさ……。なんかこういう遠慮がひとつひとつ積み重なると、本当に大事なときも連絡するのをためらうんじゃないかって思ったら、怖くなっちゃったんだ」

 頭が重くて、だんだん目線が落ちていく。視界の端にうつった母が、眉をくしゃっと下げたのがわかった。

「……結」
「私もお母さんも、すぐには無理かもしれないけど……。なにかあったときはすぐ連絡するようにしていきたいなって、思って……」

 私はよっぽど、泣きそうな顔をしていたのだろうか。ベッドから身を乗り出した母が、私の肩を右手でぽんぽん叩いた。

「わかった。これからはすぐ連絡するから。そのかわり結もそうするのよ?」
「……うん」

 そのあと、私と母は決まりを作ることにした。事故にあったとき、病気になったときはすぐに連絡すること。具合が悪いときは、無理せず病院に行くこと。毎年の健康診断をかかさないこと。

 約束をしたら、離れて暮らす不安がちょっとだけ軽くなった気がした。
 お医者さんに手術の説明を聞いて、母の昼食と一緒にさっき買ったサンドイッチを食べたあと、実家に戻る。

 一心さんにメールで店の様子をたずねると、休憩時間に返事が返ってきた。

『大場さんがはりきってくれているから営業に問題はない。ただ、おむすびがいないこころ食堂は一年ぶりだが、去年より穴が大きく感じるな』

 そんな言葉をかけられて、私がどれだけうれしく思うか、一心さんはきっと知らないだろうな。