(もうちょっとオトナになって、感情をうまく隠すスキルを身につけないと……)

 愛美はそう固く決心した。――それはさておき。

「多恵さん、わたしはもうちょっとここに残っててもいいですか? 多恵さんは先に下りて休んで下さい」

 愛美は彼女にそう言った。
 幼い頃の純也さんと、もう少し〝二人きりで対話〟したくなったのだ。彼の人となりをもっと知りたい。そして持ち前の想像力で、自分なりにその頃の彼のイメージを膨らませたい。

「ええ、どうぞ。じゃあ、私は先に休ませてもらうわね。愛美ちゃん、おやすみなさい」

 ――多恵さんが下の階に下りていくと、愛美は広い屋根裏部屋の隅から隅まで歩き回ってみた。

「……ん? 何だろ、コレ? 本……かなあ」

 手に取ったのは、ホコリを被った小さなテーブルの上に()造作(ぞうさ)に置かれていた一冊のハードカバーの本。タイトルは聞いたことがないけれど、どうも海外の冒険小説の日本語翻訳版らしい。

 表紙を開き、見開きの部分に見つけたおかしな落書きに、愛美は思わず笑ってしまった。
 そこには、子供が書きなぐったような字でこう書かれていた。

『この本が迷子になってたら、ちゃんと手をひいてぼくのところに連れて帰ってきてほしいです。辺唐院じゅんや』

「やだ、なにコレ? 可愛い」

 ここで静養していた頃に、純也が気に入って読んでいた本らしい。もうページはどこもクタクタだし、あちこちに小さな手形がついている。

「純也さんって、子供の頃から読書好きだったんだ……」

 初めて学校で愛美に会った時に、彼は「読書好きだ」と言っていたけれど。その原点がここにあったとは。

 この屋根裏に残されている彼の痕跡(こんせき)は、これだけではない。
水鉄砲、飛行機の模型、野球のボールやグローブ……。男の子が外で喜んで遊びそうなものがたくさんある。