「――っていうかさ、愛美。たまには違う髪形にするのもいいもんでしょ? いつも下ろしてるからさ。暑くなってきてるしさ」

「うん。たまにはいいかもね。だってわたし、中学の頃はずっと三つ編みかお下げしかしてなかったんだよ」

「え~、もったいない。こんなにキレイな髪してるのに。好きな人もできたことだしさ、ちょっとはオシャレに気を遣ってもいいかもよ?」

 さやかが茶化すように言って、ウシシと笑う。〝好きな人〟というフレーズに、愛美の顔が赤く染まった。
 まだ恋を自覚して半月ほどしか経っていないのだ。しかも初恋なので、この状況に慣れるにはまだまだ時間がかかるのである。

「もうっ! さやかちゃん、からかわないでよっ! わたし、まだ恋バナとか慣れてないんだから!」

「はいはい、分かった! 悪かったよ! でもあたし、アンタの髪いじるの楽しいんだ。だから、時々はアレンジさせてよね。だって、珠莉はイヤっしょ? あたしみたいな素人に髪いじられんの」

 珠莉も少し茶色がかってはいるけれど、愛美に負けないくらいキレイなロングヘアーなのだ。さやかとしては、愛美と同じくらいいじり甲斐(がい)がありそうなのだけれど……。

「ええ。私は行きつけのヘアサロンの美容師さんにしか、ヘアケアはお任せしませんの。私の髪はデリケートなのよ。素人が触ろうものなら、すぐに傷んでしまうわ」

「……あっそ。だろうと思った」

 当初は珠莉といがみ合っていたさやかも、もう二ヶ月もルームメイトをしていたらすっかり彼女の扱いに慣れたようだ。多少のイヤミや高飛車な態度くらいはスルーできるようになったらしい。