彼も一応は東京出身だし、現住所も東京都内だ。もしかしたら、今年の冬は実家に帰ってくるかもしれない。
 もちろん、愛美の勘繰りすぎという可能性もあるけれど……。

「――っていうか、珠莉ちゃん。純也さんって実家にはほとんど寄りつかないって去年言ってたよね? 親戚との関係がどうとかって」 

「ええ、確かにそんなこと言いましたわね」

 一年前までの彼はそうだったかもしれない。姪である珠莉のことさえ避けていたふしがある。
 けれど、今年の冬はどうだろう? 珠莉との仲はそれなりによくなってきたようだし、愛美という恋人もできた。彼の心境には明らかな変化がある。

(でも、だからって親戚みんなとの関係までよくなったかっていうと……)

 そこまでは、愛美にも分からない。純也さんが話そうとしないので、知る(すべ)がないのだ。

「彼、今年はどうするのかなぁ? わたしを招待することは、まだ純也さんに伝えてないよね?」

「そうねぇ、まだ。こういうことは、愛美さんからお伝えした方が純也叔父さまもお喜びになるんじゃないかしら。あなたがいらっしゃるって聞いたら、叔父さまも帰っていらっしゃるかもしれないわ」

「うん、そうだね。わたしから電話してみる」

 愛美はいそいそと、スマホの履歴から純也さんの番号をリダイヤルした。 

 別に自分が辺唐院家の関係を修復する潤滑油になりたいとは思っていない。愛美はただ、冬休みにも大好きな純也さんに会いたいだけで……。動機としてはちょっと不純かもしれないけれど。

 そして、もしも彼が本当に〝あしながおじさん〟だったとしたら、絶対に「冬休みは辺唐院家へ行くように」という指示が送られてくるはずだから。

『もしもし、愛美ちゃん。どうしたの?』

 時刻は夕方五時半過ぎ。普通のお勤め人なら、帰宅途中というところだろうか。もしくは、まだ残業中か。
 でも、彼は若いけれど経営者である。そもそも〝定時〟というものがあるのかどうか分からないけれど、愛美には彼が今オフィスにいるのか、自宅にいるのか、はたまた別の場所にいるのかまったくもって推測できない。