「純也さん……?」

 彼の顔を直視できずに(というか、ヒールを履いているとはいえ四十センチもある身長差のせいで見えないのだ)告白したけれど、彼からの返事が早く聞きたくて、愛美はもう一度呼びかけてみる。

「僕も好きだよ、愛美ちゃん」

「…………えっ?」

 彼の表情が見えない。聞き間違いかと思い、愛美は訊き返す。

「好きなんだ。君と初めて言葉を交わしたあの時から……多分ね」

 すると純也さんは、今度は愛美の目をまっすぐ見てはっきり言った。「好きだ」と。

「ホントに?」

「ホントだよ。僕がこんなことでウソつける男かどうか、愛美ちゃんも知ってるだろ?」

「それは……知ってますけど。だってわたし、十三歳も年下で、まだ未成年ですよ? それに、姪の珠莉ちゃんの友達で――」

「それでもいい。好きなんだ。だから、僕と付き合ってほしい」

 愛美はまだ信じられなくて、純也さんが断りそうな理屈を引っぱり出してみたけれど、それでも彼は引かなくて。
 でも、愛美に断る理由なんてひとつもない。彼が自分の想いを受け止めてくれたんだから、今度は愛美の番だ。

「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 恋が実った喜びで胸がいっぱいになって、愛美は泣き笑いの表情で返事をしたのだった。

「よろしく。――じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「はいっ!」

 こうして晴れて恋人同士になれた愛美と純也さんは、来た時と同じように手を繋いで千藤家への道を引き返していった。

「帰ったらさっそく、小説読ませてもらおうかな」

「……は~い。あんまり厳しいこと言わないで下さいね? わたしヘコんじゃうから」

「はいはい、分かってますよー」

 という楽し気な会話をしながら、愛美は心の中で天国の両親に語りかけた。

(お父さん、お母さん、見てる? わたし今、好きな人とお付き合いできることになったんだよ!)

 きっと見てくれていただろう。あの場所で飛び交うホタルに生まれ変わって――。