「…………」

 愛美はリアクションに困った。純也さんは時々、真顔でこんなキザなことを言ってのけるのだ。しかも、それが全然イヤミにならないのだ。

「…………。もうそろそろ着くかな」

「……そうですね」

 なんとなく純也さんの方が気まずくなったと感じたのか、彼は取ってつけたようにごまかした。

 それから一分くらい歩くと、街灯ひとつない暗い川辺に人だかりができている。

「わぁ、スゴい人……」

「うん。愛美ちゃん、はぐれないように手を繋いでおこうか」

「……はい」

 愛美はそっと頷き、彼が差し伸べてくれた手を取った。その手の大きさ、温もりがすごく力強く感じる。

「キレイ……! 純也さん、ホタルってこんなにキレイなんですね……」

 あちらこちらで、黄色くて淡い光がすぅーっと飛び交っていて、明かりのないこのエリアを(はかな)げに照らしている。

「知ってる? ホタルって、亡くなった人の(たましい)が生まれ変わったものだって言われてるんだ」

「はい。何かの本で読んだことがある気がします」

 だからホタルの寿命は短くて、その命は儚いのかもしれない。

「もしかしたらこの中に、君の亡くなった両親もいるかもしれないね」

「純也さん……。うん、そうかもしれませんね」

 今からここで好きな人(純也さん)に想いを伝えようとしている我が子の背中を押すために、彼らはここにいるはずだ。

(……告白するなら今だ! 今なら言えるかもしれない)

 そして、彼の優しさに心動かされた愛美は、繋いだ手に少し力を込めた。

「……? 愛美ちゃん?」

「――純也さん、わたし……。あなたのことが好きです。出会った時から、初めて話をしたあの時からずっと」

 途中で一度ためらって、それでも最後まで言葉を(つむ)いだ。
 初めての告白だし、ちゃんと伝えられたかどうかは分からない。ちゃんとした告白になっているかどうかも分からない。でも、今の彼女に言える精一杯の気持ちを言葉にした。