「この奨学金はね、これから先の学費と寮費を全額(まかな)える金額が事務局から出るの。大学に進んでからも引き続き受けられるから、保護者の方のご負担も軽くなるんじゃないかしら。大学の費用は、高校より高額だから」

「はあ……」

 大学進学後も受けられるなら、愛美としては願ったり叶ったりだ。大学の費用まで、〝あしながおじさん〟に出してもらうつもりはなかったから。そこまでしてもらうくらいなら、大学進学を諦める方がマシというものである。

「まあ、一応審査もあるから、申請したからって必ず受けられるものでもないんだけれど。あなたの事情や成績なら、審査に通る確率は高いと思うの。これが申請用紙よ」

 上村先生はそう言って、ローテーブルの上に一枚の書類を置いた。

「あなたが記入する欄だけ埋めてくれたら、あとは事務局から保護者の方のところに直接書類を郵送して、そこに必要事項を記入・捺印(なついん)して送り返して頂くから。それで申請の手続きは完了よ」

「分かりました。――わたしが書くところは……。あの、ペンをお借りしてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 愛美は上村先生のボールペンを借りて、本人が記入すべき箇所(かしょ)をその場で埋めていく。

「――先生、これで大丈夫ですか?」

「書けた? ……はい、大丈夫。じゃあ、すぐに相川さんの保護者の方宛てに郵送しておくわね」

「先生、このこと……わたしからも伝えておいた方がいいですか? 田中さんに」

 こんなに大事なことを、愛美ひとりで決められるはずがない。学校の事務局から書類が送られるにしても、念のため愛美からもお願いしておいた方がいいと思ったのだ。
 だいいち、〝あしながおじさん〟が「もう自分の援助は必要ないのか」とヘソを曲げないとも限らないし――。

「そうね。それは相川さんに任せるわ。私からの話は以上です」

「はい。先生、失礼します」