「それにしたって、ちょっと若づくりしすぎじゃございません?」

「失礼な。(おれ)はまだ若いっつうの。今日び、三十なんてまだまだ若者だって」

(〝俺〟……? こんな打ち解けた純也さん、初めて見たかも)

 愛美は今まで知らなかった純也さんの一面を知り、嬉しくなった。

「愛美ちゃん、今日はいつもと髪形違うね」

「あ、分かっちゃいました? さやかちゃんがやってくれたんですけど、どう……ですか?」

 純也さんは女性不信らしいと聞いたけれど、女性のちょっとした変化には気がつくらしい。気づいてもらえた愛美は、さっそくできた彼との会話のキッカケに食らいつく。

「さやかちゃんが? そっか。可愛いね。よく似合ってるよ」

「あ……、ありがとうございます」

 女性をストレートに褒められる男性が減ってきているこの時代に、純也さんはどストレートに褒めてくれた。男性にまだ免疫のない愛美は、今にも顔から火を噴きそうな気持になった。

「まあまあ、叔父さまったら。キザなんだから!」

 珠莉が呆れているような、面白がっているような(愛美の気のせいかもしれないけれど)口ぶりで、叔父をそう評した。

「さやかちゃん、ヘアメイク上手だね。美容師目指してるのかい?」

「いえ。ウチに小さい妹いるんで、実家ではよく妹の髪やってあげてるんですよ」

 さやかは数週間前のチョコレートケーキが効いているのか、まだ会うのが二度目なのにもう純也さんと打ち解けている。
 彼女曰く、「チョコ好きに悪い人はいない」らしいのだ。

(いいなぁ……。わたしも二人みたいに、純也さんともっと打ち解けてお話できたらいいのに……)

 親戚である珠莉はともかく、さやかまでもがもの()じせずに純也さんと話せていることが、愛美は羨ましかった。
 というか、ロクに男性と話す機会に恵まれなかった、高校入学までの十五年のブランクが(うら)めしかった。