――それから数週間が過ぎ、G.W.(ゴールデンウィーク)が間近に迫った頃。

「相川さん、お疲れさま。もう部活には慣れた?」

 文芸部の活動を終えて、部室を出ていこうとしていた愛美は、三年生の部長に声をかけられた。
 彼女は前部長が卒業するまでは副部長をしていて、三年生に進級したと同時に部長に昇格した。お下げの黒髪がよく似合い、シャレた眼鏡(メガネ)をかけているいかにもな〝文学少女〟である。名前は後藤(ごとう)絵美(えみ)という。

「あ、お疲れさまです。――はい、すっかり。すごく楽しいです」

「よかった。あたしも冬のコンテストの大賞作読んだよー。すごく面白かった。さすが、千香(ちか)先輩が見込んだだけのことはあるわ」

「いえ……、そんな。ありがとうございます」

 愛美は何だか恐縮して、控えめにお礼を言った。――ちなみに、前部長の名前は北原(きたはら)千香というらしい。

 一年生の新入部員の子たちと一緒に入部した愛美は、最初の頃こそ「相川先輩」「愛美先輩」と呼ばれ、一年生たちから少し距離を置かれていたし、愛美自身も一年下の〝同期〟にどう接していいのか分からずにいたけれど。
 最近では一歳くらいの年の差なんてないも同然で、一年生の子も気軽に声をかけてくれるようになった。敬語は使われるけれど、同じ小説や文芸作品を愛する仲間だ。

「来月に出す部誌は、新入部員特集号だから。巻頭は相川さんの作品を載せることにしたんだよ」

「えっ、ホントですか!? ありがとうございます!」

 愛美も今度は、思わず大きな声でお礼を述べた。
 新入部員とはいえ、自分は二年生だから、一年生の子に花を持たせてやりたいと思っていたのだ。

「うん。あの作品、みんなから評判よくてね。満場(まんじょう)一致(いっち)で巻頭に載せるって決まったの」

「そうなんですか……。なんか、一年生の子たちに申し訳ないですけど、でもやっぱり嬉しいです。――じゃあ、失礼します」