「うん、そうそう。ウチのお兄ちゃん、治樹(はるき)って名前で早稲(わせ)()大学の三年生なんだけど。写メ見ただけで愛美に一目ぼれしちゃったらしくてさあ」

「…………え?」

 愛美は絶句した。一目ぼれなんてされること自体初めての経験で、しかも直接あったこともない人からなんて。
 ……確かに、自分でも「わたしって可愛いかも」と少々うぬぼれているかもしれないけれど。

「もう、ホントしょうがないよねえ。あたし、『愛美には好きな人いるよ』って言ったんだけど。『本人から聞くまでは諦めない』って言い張って。もう参ったよ」

「ええー……?」

 そこまでいくと、立派なストーカー予備軍である。愛美の恋路の(さまた)げになりそうなら、さっさと諦めてもらった方が平和だ。

「……ねえ。お兄さん、早稲田に通ってるってことは、東京に住んでるんだよね?」

「うん。実家からでも通えないこともないんだけど、大学受かってからは東京で一人暮らししてるよ。――そういえば、純也さんも東京在住だったっけ」

 そこまで言って、さやかはようやく愛美の質問の意図(いと)を理解したらしい。

「愛美は……、もし東京でウチのお兄ちゃんと純也さんが出くわすことがあったら、って心配してるワケね?」

「うん。だって、わたしが片想いしてる人と、わたしに好意持ってる人だよ? 明らかに修羅(しゅら)()になるよね」

 愛美は実際の恋愛経験はないけれど、本からの知識でそういう言葉だけはよく知っているのだ。

「考えすぎだよー。お互いに顔も知らないじゃん。街で会ったって誰だか分かんないって。東京だって広いしさ、住んでるところも全然違うだろうし」 

「そうだよね……。それはともかく、わたしはさやかちゃんのお家に行ってみたいな。おじさまに許可もらわないといけないかもだけど」