そして日が暮れる。三成は寺の山門の下に立つと、じっと川の方角を眺めていた。とはいえ、そこには何も見えない。辺りを闇が包み込み、先ほどまでキラキラと陽の光を照り返していた川も、黒一色に飲み込まれている。水が流れる音だけが、そこに川が存在していることを主張していた。

「……来たな」

 三成はつぶやく。それは、ゆっくりとやってきて、いつの間にか一帯を覆い尽くしていた。
 白い霧。ついさっきまで晴れていたはずなのに、いつの間にか、全く気が付かないうちに立ち込めている。そして真夏にも関わらず、背筋を震わせるような寒気が、身体にまとわりついてきた。

「石田様。間違いありません、奴です」

 横にいた住職が緊張した面持ちで伝えてきた。

「よし、行くぞ!」

 三成は配下に合図すると、寺の外へと足を踏み出した。


      *     *     *


「おや、今夜は随分とにぎやかじゃなあ?」

 女の声。配下が松明を掲げる。霧に反射してはっきりとは見えないが、橋の中央に白い影が佇んでいた。形、大きさ、どちらも人間と対して変わらないように見える。が、あくまでそれは遠目に見た姿かたちだけだ。橋に近づくごとに、寒気はよりはっきりと、三成の身体を包み込んだ。霊気、あるいは邪気というヤツだ。

「この辺りの者ではないな? さては都から来たといいう関白の軍勢か?」

 橋のたもとまで来ると、その姿ははっきりと見えた。女の姿。ただし、その肌は透き通るように白く、結いもせずに風に流されるままの長い髪の毛は、真剣の刀身のような青い光を放っている。そして、その髪の隙間からは、左右一対の鹿のような角が伸びている。明らかに人間ではない。