立ち上がった夜叉は後ろに大きく跳躍し、三成から距離を取る。
「この橋はもともと、わらわが宿っていた老木を切り倒して作ったもの。住み心地の良い木じゃったのだが、こうなっては仕方あるまい。新しい家を探しに行くかのう」
そう言って、夜叉は対岸の闇へと消えようとした。
「さらばじゃ」
しかし……
「ふっ、馬鹿め」
橋を離れ、地面を足をつけたその刹那。
「ギャアアッッ!?」
夜叉の身体に食い込んでいた弾丸が爆ぜ、その体内で暴れまわった。止まりかえかけていた血は再び吹き出し、骨を砕き、肉を切り裂く。
「な……なにを……した?」
夜叉の身体は、再び崩れ落ちた。三成は、脚を動かしてブチブチと絡みついたツタをちぎる。自由を取り戻すと、橋の上をゆうゆうと歩き出す。
「初撃の弾丸が、無駄打ちだったと思ってるのか? あれで結界を作っていたんだよ。貴様がこの橋から逃げ出さないようにな!」
「なっ? しかし貴様、初撃は様子見だと言ったではないか?」
「一つの手に、いくつもの意味をもたせる。軍配師として当たり前のことだ」
「……貴様。本当に忍城でヘマこいた三流軍配師なのか?」
チッと三成は舌打ちをする。
「ああ、そうだよ。理屈は完璧でも、無能に足を引っ張られると、たちまち三流の烙印が押される。だから大軍を使っての合戦は嫌いなんだ!!」
吐き捨てるように言った。忍城での敗因には、三成の判断の誤りが含まれている。仕方あるまい、それは認めよう。しかし、全てが私の責任か? 私の指令通りに動かない無能連中に責は無いのか?
「その点、物の怪退治は良い。すべてが私の思うようにいくからな。政務で溜まった鬱憤を晴らすのに最適だ!」
三成は橋の最端まで来た。地面に伏した夜叉を、ほぼ真上から見下ろす。
「友軍や民からの嘲りの声は無視するしかない。それに怒っても誰も得しない。デキる奉行は受け流す」
夜叉は、自分を見下ろす男の瞳を覗き込み……そして震えた。
「ヒッ!?」
「だが……物の怪なら話は別だ。貴様にどう怒りをぶつけても不満を言うものは誰もいない」
これまでの自分を見ていた瞳とは違う。そこに歓喜の色が出ていた。
「私を散々三流呼ばわりしたこと、後悔させてやるよ……!」
これまでの銃声や叫び声などとは、比較にならないほど大きな夜叉の悲鳴。これまで耐えに耐え続けていた三成の我慢は、ついに暴発した。夜叉は不幸にもそれを一人で受け止めなければならなかった。
霧は、いつしか腫れ上がり、天には月が輝いている。月は無感情に、橋のたもとで行われている惨劇を、ただただ見下ろしていた。
「この橋はもともと、わらわが宿っていた老木を切り倒して作ったもの。住み心地の良い木じゃったのだが、こうなっては仕方あるまい。新しい家を探しに行くかのう」
そう言って、夜叉は対岸の闇へと消えようとした。
「さらばじゃ」
しかし……
「ふっ、馬鹿め」
橋を離れ、地面を足をつけたその刹那。
「ギャアアッッ!?」
夜叉の身体に食い込んでいた弾丸が爆ぜ、その体内で暴れまわった。止まりかえかけていた血は再び吹き出し、骨を砕き、肉を切り裂く。
「な……なにを……した?」
夜叉の身体は、再び崩れ落ちた。三成は、脚を動かしてブチブチと絡みついたツタをちぎる。自由を取り戻すと、橋の上をゆうゆうと歩き出す。
「初撃の弾丸が、無駄打ちだったと思ってるのか? あれで結界を作っていたんだよ。貴様がこの橋から逃げ出さないようにな!」
「なっ? しかし貴様、初撃は様子見だと言ったではないか?」
「一つの手に、いくつもの意味をもたせる。軍配師として当たり前のことだ」
「……貴様。本当に忍城でヘマこいた三流軍配師なのか?」
チッと三成は舌打ちをする。
「ああ、そうだよ。理屈は完璧でも、無能に足を引っ張られると、たちまち三流の烙印が押される。だから大軍を使っての合戦は嫌いなんだ!!」
吐き捨てるように言った。忍城での敗因には、三成の判断の誤りが含まれている。仕方あるまい、それは認めよう。しかし、全てが私の責任か? 私の指令通りに動かない無能連中に責は無いのか?
「その点、物の怪退治は良い。すべてが私の思うようにいくからな。政務で溜まった鬱憤を晴らすのに最適だ!」
三成は橋の最端まで来た。地面に伏した夜叉を、ほぼ真上から見下ろす。
「友軍や民からの嘲りの声は無視するしかない。それに怒っても誰も得しない。デキる奉行は受け流す」
夜叉は、自分を見下ろす男の瞳を覗き込み……そして震えた。
「ヒッ!?」
「だが……物の怪なら話は別だ。貴様にどう怒りをぶつけても不満を言うものは誰もいない」
これまでの自分を見ていた瞳とは違う。そこに歓喜の色が出ていた。
「私を散々三流呼ばわりしたこと、後悔させてやるよ……!」
これまでの銃声や叫び声などとは、比較にならないほど大きな夜叉の悲鳴。これまで耐えに耐え続けていた三成の我慢は、ついに暴発した。夜叉は不幸にもそれを一人で受け止めなければならなかった。
霧は、いつしか腫れ上がり、天には月が輝いている。月は無感情に、橋のたもとで行われている惨劇を、ただただ見下ろしていた。