「なるほどな、いいお節介をした」

 「そうでしょ、褒めてルイさん」

 自分のこととエレーヌのこと。どっちもルイさんにだけは絶対知っといてもらわないといけない気がした。ルイさんは何も言わないけどエレーヌとショーンのこと自体は前から知ってたようだし。

 「それで、エレーヌのことは一旦置いといてお前はこれからどうするんだ」

 「レイとお付き合いする。ジュンイチにどうやって言うかは今考えてるとこ」

「そうか、まあ高校生のうちは結婚なんて大それた話も出ないだろうし、好きにしなさい」

 「私がアンドロイドだっていうのはさ、いつか言わなきゃいけない、通れない道もあるのかな」

 「あるかもしれないな。まあ、そうなったらその時考えるさ」

 難しく考えるな、そんなのは私たちの仕事だ。とルイさんはいう。そもそも論だけど、編入時点で隠しているのは人間に混ざれるかどうかっていう実験だからだけどばれたらばれたでアンドロイドを日常生活に投入できるかの実験とか言ってもいいのだ。
 もちろんマユにもシキちゃんにも嘘をついているのは変わらないけれど悪意があるのではなく業務上の守秘義務に近いものはある。

 レイに対してもそれはかわらない。たとえば、レイが騙されたんだって声高に叫んでも実験の一環でってことになるんだろう。もちろん私は悲しいがそういう難しい部分のこともきちんと考えたうえで投入実験の可否だって審議されている。

 「ジュンイチの話は結局聞いたのか」

 「おうちのこと? 聞いたよ。そのうえで私はジュンイチを選ばない。レイを好きなのは私のエゴだよ」

 「エゴか、データ化はできてもさすがにエゴ、エス、超自我の可視化はまだ難しい部分だな」

 「私一台でどうにかなるんならこの世に精神科医はいらないんじゃないかなあ」

 「それもそうか」

 自我の発達、心の成長、エスと超自我のバランス。単なる記憶のエミュレートから随分と話が膨らんだものだ。元々医療分野への投入が計画にはあったそうだから人体補完という倫理観ぎりぎりのところよりは精神面の作用の経過観察なんかのほうが求められてるのかもしれない。そういう難しい話の中身まではまあどうでもいいとして。

 「これは私の仮説なんだけど、エレーヌよりショーンのが惚れこむの早かったんじゃない?ルイさんそれも知ってたでしょ」

 「なんでそう思うんだ」

 「部屋に会ったぬいぐるみ、タグが全部スペイン製だったよ。ショーンはスペイン人だよね。たまたま全部スペイン製のものをゲットしたって無理ない?」

 「よく見てるな、たしかにショーンのが早かったよ。まあエレーヌは知らなかったが」

 経緯はさておいて、片思いしあってたっていうんだからなんだかおかしな話だ。お互いに悶々としてたこともあっただろうけれど収まるべくして収まってくれればそれが一番いい。

 今回のことはきっかけにはなったかもしれないけれどそうじゃなくてもどこかで二人がくっつくシチュエーションは発生しただろう。まあそのお節介を焼いたのは自分だけど、でもそれだってちゃんと思うところがあるからだ。

 「私エレーヌが羨ましかったんだよね、国とか歳とか人間にはいろいろ要因があるけれど今どき珍しくもないとか時代の流れに合わせて文化や偏見は形を変えていくから」

 「…キヨハは人間にはなれないものな」

 「うん、人間と紙一重でもその紙一枚ってきっととっても分厚くて固いものだよね」

 例えば私が、初期化してもきっとまた人間になりたいって思うんだろう。そうしてまたレイを選ぶと思うし、そうありたいって思う。人間になりたいのはかわらない。けどそこにアカリはもういない。私は私。タカシロ キヨハだ。