授業は別に難しいことはなかった。やっていることはたしかにハイレベルなんだろうけど研究所でファブリに仕込まれていた内容が結構そのままだ。一応自学用の演算領域を拡張してもらったので、高校の科目データを自分で穴埋めしていくような方式になってはいる。といってもズルができるのには変わりないけれど。(もちろんこのズルって表現が正しくないとも思うけれど)

 板書されている単語をノートに書き記してはマユが見せてくれている教科書へ視線を落とす。歴史の授業は楽しい。ファブリにやってもらった世界史もそうだったけど、それこそあっちこっちで起きた出来事が絶対次の事件につながってくるのがパズルみたいで。そういったらファブリは文系科目なのに考え方が理系過ぎるとあきれていた。仕方ない、物理的に理系の塊なのだ、私は。

 「キヨハ、ここわかる?書く前に消されちゃった」

 「これかな」

 「ありがとう~助かったぁ」

 マユがそう小声でこぼす。授業中に私語は慎むように、とエレーヌに言われていたけどこうやってこっそり話したりするのもちょっと楽しいかもしれない。
 そういえば、場所によっては授業中に手紙を回してみたりなんてこともするらしい。なんでそんな怒られそうなことするんだろうって思ったけれど、なるほど、これはくせになりそうだ。

 板書が終わってプリントが配られる。シキちゃんがこっちを向いて、またも小声でいけそう?と聞いてくれたので小さくうなずいた。一枚とって後ろに回すとレイがにやにや~っと笑っていた。

 「マユが教わってちゃ意味ないよなあ」

 「そんなことないよ」

 五秒くらいの短い会話なのに、やっぱりどことなくジュンイチに似ている気がする。歳は離れてるし、一緒に住んでた期間も短いそうだからそんなに気にならないだろうと高をくくっていたけれど見通しがちょっと甘かったようだ。

 考え方が違っていようと育ってきた環境が似ていれば、そして少しでも見ていれば仕種も振る舞いも似るだろう。タカシロ マサチカがジュンイチもレイも家庭内でのロールモデルなのだから当然だ。もっと早く気が付けばよかった。

 先生の話の、大切そうなところをメモしては赤ペンで囲ってを繰り返す。期末は再来週だと聞いているけれどこれなら特に問題なさそうだ。特に面白いことはなくて、単なる作業だけれどほかの人が周りにいるっていうこの環境はすごく不思議な感じがする。
 普通は、幼稚園とか小学校とかいう過程があって、それは生きていくうえで当然の通り道で、疑問に思う人なんてあまりいないのかもしれないけれど。

 ジュンイチやルイさんは、どんな風に学んでどうしてそこからAI研究をしようと思い立ったんだろう。学ぶってプロセスでなにがそんなに興味をひいたんだろう。ファブリなんかはもっと極端だ。十八なのにもう博士課程まで終わらせてる。神童とか天才とか一言で言うのは簡単だけど、才能っていうのは、それが好きで初めて機能するものだ。単純な話で、嫌いなことはそもそもやらないし続かないから。なにがそんなに楽しかったんだろう、帰ったら聞いてみようかな。