「ジュンイチも、ほら誉め言葉の一つも言いなさいよ」
「ああ、うん。よく似合ってるよ」
「ありがとう」
あれから無理を言って、みんなに顔を作りなおしてもらった。私の顔はもうアカリに似せたそれではなくて、アカリじゃなきゃなんでも良いと言ったらみんなの趣味で好き勝手作られた。それがどう評価される顔かはよくわからないけれど、ジュンイチが私を見つめることは格段に少なくなった。
髪は、たびたび整えたりはするけれど相変わらず長いまま。今の私にミナヅキ アカリっぽさなんてかけらもないだろう。ジュンイチには、私を見る理由がない。だからこそ、目があったってどこかそっけなくなってしまう。私の保護者、いや責任者は変わらず彼のままだけど。
「行こうか、ほらジュンイチもいくぞ」
「はーい、いってきまーす」
「いってきます」
権利の関係もあって、ルイさんとジュンイチに同行されて今日は学校まで行く。ルイさんの愛車のフォルクスワーゲンは長く乗っているそうなのに今日も丁寧に手入れをされていた。機械と会話する能力、なんてのはあいにく持っていないけれどそういうことができたら楽しそうだなあと思う。
人為的なAIの搭載されていない無機物でも思うところがあったりするのかな。もしそうだったとしたらルイさんの愛車は幸せなんじゃないかなあとか。夢見がちになったよね、と先日ファブリに笑われたばっかりだ。
助手席にジュンイチ、後部座席に私が乗り込み車が発進する。大学の敷地より外に出たことはない。そのあと研究所に来た時だって私は荷物として輸送されたし、完全な外部に出ることが初めてだったのでそわそわと窓の外を見た。
知識はある。信号機がどんなもので、ガードレールがどう機能するもので、歩道に歩行者と自転車のエリアがあることも、一般社会に馴染むための知識はあるけれどそれを実際目にしたのは初めてだ。クラスメイトの前でこんなにそわそわしてたらばれてしまうかもしれないから今のうちに堪能しておきたい。
高校生レベルからの発達が今までよりは遅くなる、というのは本当で今の私の意識は十七歳だけれど、会話の水準で困ることはあまりない。精神年齢はまだまだ幼く、人間でいうところのストレス耐性は少々弱めかもしれないけれど、学校生活で困ることはそんなにないと思う。