澄んだ青空に映える、朱と緑青色(ろくしょういろ)の門。
 瓦屋根の影がかかる上部中央の扁額(へんがく)には、金で書かれた『金龍山』の文字が賑わう人々を静かに見下ろしている。

 普段ならばこの人込みに飛び込むのは躊躇われるのだけど、打掛のおかげか、壱袈が何か術でも使っているのか。
 私達の姿など見えていない様子なのに、人が自然と避けてくれるのでとても歩きやすい。

「久しぶりに近づいたけど、やっぱり大きいー……」

 難なくたどり着いた、浅草といえばなメインシンボル、『雷門』の名を記す大提灯の真下。
 その大きさに圧倒されながら見上げると、雄々しく口を開いた、朱の色が目立つ彫刻の龍が目に入った。

「えっ、こんなところに龍なんていた?」

「左方と右方から、風神、雷神が睨みを利かせているからな。気付かぬのも無理はない」

 その龍もまた、ここの"護り"だなあと壱袈も龍を見上げ、

「龍もまた、雨を呼び火を収める神のひとつ。昔は木の建築が多かったからな。事実、この門も幾度となく焼失している。最後の延焼からしばらくは再建もなかったが……やはり、こうして派手なモノは良い。この門が出来たのは、つい最近だな」

 深紅の眼が、懐かしむように細まる。

「浅草寺の本尊は、隅田川で漁をしていた兄弟の網にかかった仏像であろう? 話によるとその引き上げの際、金の鱗を纏った龍が現れたというが……」

「あ、もしかしてそれで、"金龍山"なの? あれってなんのことかなーってずっと思ってた」

「浅草寺の屋号よ。まあ、真偽はわからぬが、龍はこの浅草寺にとって無くてはならぬ"護り神"ということだ」

「へえ……。もし龍じゃなくて金の猫が出てきていたら、"金猫山"だったかもだし、ここには猫ちゃんが彫られていたかもってこと」

「蛙が出れば、金の蛙だったかもな。まあ、どちらも雨は呼べぬが、猫は福を招く。蛙は様々なモノが"かえる"縁起物とされているし、祀られてもおかしくはないだろうな」

 壱袈は冗談めかしてくつくつと笑って、

「なんにせよ、全てには"始まり"があるということだ」

「……はじまり」

 頷いて、壱袈が再び歩き出す。

(……雷門は雷門、って感じだったから、成り立ちとか全然気にしたことなかった)

 こうして聞いてみると、案外面白いというか……なんかよりご利益がありそうというか。