「というわけれして……アタシにとってしおやさんは恩人なのれす!」

 全くろれつが回っていない。脳に侵入したアルコールが、ぐわんぐわんと視界を歪めているが、それでも由良はグラスの中身を飲み続ける。

「いや、酔い過ぎだろ大星さん……」
「酔わじゅにいられないっしゅよ! みーんな、こーののやろうに迷惑してんれすから!」

 グチに付き合うと言った堀部の想定を大きく上回るような荒れ方だった。一度吹き出した高野への怒り、塩谷への心配、何もしなかった罪悪感。そう言ったものを全て堀部にぶつけていた。

「らいたいほりべさんねぇ、あのゴーマンな態度のうらでどれだけの人がないてるか分かってないでしょ!?」
「いや、俺だってアイツの被害者みたいなもんだぜ? 何度バトルシステムの件で無茶振りされたか……」
「いーえ! わかってないでしゅ! ほりべさんは外ちゅーだもん。社内企画のハナシとかしらないでしょ?」
「社内企画?」

 MODEL-ABCはデベロッパーだが、ただ受けた依頼をこなすだけという経営方針はとっていない。社内で企画を立ち上げ、それをパブリッシャーに提案するということもやっている。実際、フェンリスヴォルフもそうやってアナナスに提案して始まった企画だった。

 そのフェンリスの成功を受けて、社長は新企画の立ち上げを奨励していた。誰の発案でも構わない。優れたものになりうるアイデアは、社員全員でそれを補完して一つの企画に育て上げる。そしてそれを積極的に得意先に提案していく。そう、社員全員に説明した。

 そんな社長の方針を歪めたのが高野だ。企画部のチーフとなったこの男は、社員のアイデアを拾い上げる役を担った。……のだが、実際にやってることはその真逆だった。

『何でこれが受けると思ったの?』
『ふうん、それで?』
『企画以前の問題、このワケがわからん図いるの?』

 塩谷のときと同じだ。アイデアの種をもった社員がプレゼンしても、高野の拒絶や揚げ足取りに遭い、まともな企画として成長したものは一つもなかった。そして高野は役員会で「ウチには企画を作れる人間がいない」とうそぶいてるらしい。

「実はアタシもあたためてる企画があるんれしゅ……けど、どーせ通らない……提出してま……。じかんの……むられしゅ……」

 グチを並べているうちに、強烈な睡魔が由良の頭を侵食していく。とぎれとぎれとなっていく由良の言葉を聞きながら、堀部はチェイサーの氷水を飲み干した。