由良と堀部が、東口の焼き鳥屋に入ると、カウンター席に通された。

「それにしても意外でした。堀部さんがダーツやるなんて」
「実は俺は前から知ってたんだけどね。大星さんがあの店に行ってるの」
「ええ…… なら声かけてくださいよ~」

 そう言いながら、堀部が適当に頼んだ串を片手に、ホッピーを喉に流し込む。

「いやだって大星さん、会社じゃダーツの話なんてしないじゃん? だから内緒にしてるのかな、思って」

 まぁ、たしかにその通りだった。

「アタシのスコア見たでしょ? 下手の横好きレベルで『ダーツが趣味です』なんて言うのも恥ずかしいじゃないですか」
「いつもあんなんなの? 俺はてっきり、高野の野郎にムカついて手元狂ってたのかと思ったわ」

 レバー串を口に加えたまま、由良は目を丸くした。なんで? なんで分かるの??

「みなまで言わなくていいよ。俺もそうだから」

 堀部はぐいっとグラスを傾けて、焼酎のロックを飲み干す。カランと、重力に負けた氷が崩れる音がした。
 そういえば、堀部もここにいるって事はあの飲み会を抜け出してきたという事じゃないか。この人は業界歴20年近いベテランプログラマーだが、ウチの会社に来たのはフェンリスヴォルフの立ち上げのときだ。
 加入早々、まだプランナーの一人だった頃の高野と揉めているという話を聞いたことがあった。その頃から、高野に対して含むところがあるのかもしれない。

「塩谷さんのコトだろ? 我慢せずに言ってみ、俺が聞いてやるから」

 由良はプログラマーという人種が、時々何を考えてるのかわからないことがあった。だから少し苦手意識を持っていたのだけど、このときばかりは堀部の背中に後光が差している見えた。