『そういえばアイツを奥さんと別れたんだっけな。チャンスだぜ由良ちゃん♪』

 帰社するやいなや、緊急で開かれた役員会。堀部はその場でスマホに録音されている高野の肉声を披露した。昨日会議室に呼ばれた時、堀部がボイスレコーダーアプリを立ち上げたスマホを、由良のジャケットに忍ばせていたらしい。由良自身、全く気づかなかったのだが、パワハラ、セクハラ、モラハラ三拍子揃ったこの肉声が、高野の社員生命を断ち切った。

「これを、アナナス社内で流さなかった大星さんと堀部さんに感謝しろ!!」

 役員は全員、鬼のような形相で高野の行状を追求した。即日、高野は無期限の謹慎を言い渡され、すべての役職が剥奪された。そして社長主導で開発体制の刷新とアナナスとの関係改善が図られることとなった。

「けど問題は堀部さん、あなたと退職した塩谷くんですよ」

 え? 思わぬ方向に話が進み始める。

「アナナスでのあなたスタンドプレイ、それに塩谷くんのパワハラ公表は良くない。理由ある行為とはいえ、結果的に会社を窮地に追い込みました」
「お怒り、重々承知しています。塩屋さんにプロフを変更するよう求めたのも私です。全ての非は私にあります」

 堀部は平然と言い放った。ちょっとまってよ堀部さん。何を言ってるの?

「そうですか。あなたはうちの社員ではない。申し訳ないが……」
「ちょっとまって下さい!!」

 由良は声を張り上げた。絶叫と言っていいような大音声だった。

「どういうことですか? 堀部さんを処分すると……?」
「理由がどうあれ、アナナスに足並みが揃っていないことを見せてしまった。詳細な措置を求められている以上、彼にも……」
「ふざけないでください!!!」

 さらの大きな声に、役員は思わず耳をふさいだ。
 
「堀部さんも塩谷さんも……二人ともアタシのプロジェクトに無くてはない人です! みなさんでもアナナスでも関係ない。誰が相手でもアタシは二人を守ります! 」