そして夜。自宅に戻った由良はPCの前で黙々と腕を動かしていた。可能ならば会社で全て終わらせたかったが、それも出来なかった。塩谷の件のあと、会社では過度な時間外労働が問題となり、22時以降の残業が全面禁止となったからだ。

 22時の段階で残っている作業はすべて家に持ち帰るしか無かった。デザイナーにお願いした画像素材の作成も、各自の家で行ってもらった。描きあがり次第、データを転送してもらい、それを由良が原稿に反映する。

「よし、ありがとう斧田さん……」

 日付が変わる寸前に、斧田からのメッセージがあった。お願いしていた最後の素材をアップロードしたという内容。添付されてたURLを叩き、ファイルをダウンロードすると、斧田に「Thank You!!』のスタンプを返した。これで素材は揃った。あとは自分の作業だけだ。

 届いた画像をパワーポイントで配置していく。そして全体を通して読み返す。
 プレゼンを想定し、頭の中でアナナスの重役に説明していく。この項目の説明はここでいいのか? この画像で本当にわかりやすくなっているのか? テキストひと文字、画像ひとつを、丹念にチェックする。脳内で、プレゼンに躓きがあれば、そこに補足説明を入れる。逆に説明過多で、却って分かり辛くなっている箇所はカットする。

 きめ細やかな作業の真っ最中、堀部からラインが入ってきた。

〈なんとか算段ついた。明日、出社しなくていいから、プリントした企画書と名刺を持って↓に来て〉

 そのメッセージの下には住所が書かれていた。それをコピーしてマップアプリで検索する。

「本丸に突入、か……」

 アプリには『株式会社アナナス』と表示されていた。