「ゴメンなさい私のせいです!! 私が不用意にプリントアウトした大星プランを机の上に置きっ放しにしていて……席に戻ったら消えてて……」

 3Dモデル班の女の子が涙目でうずくまっている。由良の席の周りに、協力者が全員集まっていた。

「いや、あなたのせいじゃないよ。頭を上げて、ね?」

 由良は彼女をなだめる。この子に責任はまったくないけど、流出した原因は特定できた。どこまで卑劣なんだ。なんであんな奴がチーフディレクターなんだ?

「けど……どうするんですか? 明日プレゼンってことは、ウチらもう間に合わないですよね……?」
「企画書としては、だいぶ見られるものになってるけど……」
「いや、まだ役員会にも通してない。アナナスに見せられる段階じゃない」
「こっちのコンセプトをまるごとパクられてし、今更コレを出した所で後追いにしか見られないよ……」

 みんな明らかに消沈していた。自分の業務も抱える中で、時間を捻出して協力してくれた人達。彼らに何も報いることが出来ず、このまま終わってしまうのか……?

「……クリケットだ」

 ずっと目をつぶって考え続けた堀部が口を開く。

「奴が俺たちのエリアを奪ったのなら、今度は俺たちが奴のエリアを奪ってやればいい」

 みんな、ぽかんとした顔で堀部を見つめた。ダーツのルールを知る由良だけは、堀部の言っていることを理解する。以前の例えよりかは、いくらかマシな使い方だった。
 けど、理屈はわかるけど、どうやって奪う? どこにダーツを投げれば、高野のエリアをマークする事が出来る?

「今夜中に俺がなんとかする。大星さんは、明日までに出来る所までクオリティを上げてくれ」
「……わかりました」

 何か考えがあるんですか? ここからどうやって巻き返すんですか? 聞きたかったけど、考えがあるのならこの人を信じよう。ここまでこれたのはこの人のお陰なのだから。