「いるんだよな。そうやって前提ひっくり返すのが、出来るクリエイターだ! みたいに思っているのが」

 いつもの焼き鳥屋で、由良は堀部に敗戦報告をしていた。

「特に斧田は、ずーっと高野の下でそういうのを見てきたしなぁ」
「その後、場もシラけちゃって……」

 勢いづいた斧田はとまらなかった。建設的意見にダメ出しをして、出鼻をくじく。そこから持論へ繋げていく。その繰り返しで、他のメンバーの気力は確実に削がれていった。

「大星さんもよくなかったな。企画者は我を押し通す胆力も必要だぜ?」
「わかってます。けど……その根拠がなければ高野と一緒だなと思ったら何も言えなくて……」
「その高野なんだけどさ……やられたよ」

 堀部は、忌々しげにジョッキの中身を喉に流し込む。

「今日の件、どーも仕組まれてたみたいでさ」
「へ?」
「移動中に言われたんだ。大星さんが何かやってるらしいから、斧田を参加させて間接的に『サポート』するって」
「はァ!?」

 思わず上半身が椅子から浮いた。

「あの顔、俺たちがやってることはお見通しだ、と言いたげだったな」
「てことは斧田さんは、高野の指示でアタシたちを引っ掻き回しに来たんですか?」

 何で? 怒りとか嘆きとか以前に、純粋な疑問が浮かんできた。何の意味があるそんな事に?

「いや、斧田の口ぶりに引っ掻き回してるって自覚はなさそうだ。どちらかというと高野が『けしかけた』って感じだろう。こうなる事を想定してたんだ」

 下衆すぎる。まだ直接「潰せ」と命じる方が可愛げがある。

「これからも斧田は、事あるごとに場を混乱させるぞ」
「そんな……」
「切り捨てるのも手だ。今なら出血は少なくて済む。俺から斧田に言ってもいい」

 なるほど、そういう考え方もあるか。斧田とは揉めるだろうけど、このまま大星プランをズタズタにされたくはない。せっかく声をかけた他のメンバーに軋轢が生じるのも嫌だ。今のうちに、ベテランの堀部さんから言ってもらえれば、確かに被害は最小限に押さえられる。

 でも……

「斧田さんだって、10年近くこの業界でやってきた人です。きっと、この企画に大切なピースを隠し持ってると思います。それに……」

 都合が悪いものを拒絶する。そのやり方で、仕事も家族も健康も失った人がいた。アタシはそのやり方を選びたくない。

 堀部は、由良の口から出てくる信念に耳を傾けた。そして

「そうか……。なら、会ってみるか?」
「え、誰にですか?」
「斧田にデザイナーのいろはを教えた人だ。そのピースとやらがわかるかも知れないぞ」