大星プランに斧田を合流させたことを、由良は早くも後悔していた。
由良の図の清書については問題なかった。ヒエログリフの解読よりも難解な由良のイメージ図を分かりやすい形にブラッシュアップしてくれた。堀部も、斧田版のロードマップを見て、ようやく由良が言いたかったことを理解できた。
問題は、企画そのものに対する関わり方だ。
その日、高野はアナナス本社での会議のため、午後から外出して直帰の予定だった。鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに、由良は大星プランの相談をしていたメンバーを集めた。
堀部と二人だけでの会議室使用すら、猜疑の目を向けてくる高野のことだ。奴の目が届く所で7~8人も人を集めたら、面倒くさい事になりかねない。だからこれまで、個人的な相談という形でしか話を進められていなかったけど、ようやく大人数で検討会を開くことが出来た。
メンバーたちも同じ思いだったようだ。高野さんがいない今なら、とばかりに快く招集に応じてくれた。
検討会はブレスト形式で進めた。由良は自分の企画のコンセプトは明確にしていたけど、それを体現するにはアイデアが不足してると考えていたからだ。
『ブレストは前準備を入念にな。スタート地点の足並みを揃えるのが大切だ』
高野とともにアナナスへ行くため、堀部は出席できなかったのだが、事前にアドバイスしてくれた。それに従って、前日までにひとりひとりに説明して回った。麦のロードマップが良かったのか、検討会の前半は、みんなが思い思いに意見を出してくれた。
雲行きが怪しくなったのは、斧田が挙手してからだ。
「そもそも、これってサンドボックスでやるような事なんですか?」
思ってもない言葉が飛んできた。
「サンドボックスってクエストとかクリア目標とかが無くて、プレイヤーが自由にできるゲームですよね? それって、決まったことを勉強しなきゃいけない小学校の教育と相性悪くないですか?」
「いや、そこは最初はクエスト用意して誘導してやる必要があるんじゃない?」
メンバーの一人が言った。
「じゃあ、サンドボックスじゃないですよねコレ」
束の間、場が沈黙しする。
「今はそんなジャンルの話はよくない? それよりも……」
「いやいや大切でしょ。それでコンセプト変わってきますよ?」
沈黙が良くない流れを作ると感じた別のメンバーが話しを変えようとするが、斧田は即座にそう答えた。嘘でしょ……由良は愕然とする。コンセプトならはっきりしているだろう。それをイメージしてもらうための麦のロードマップだったのに、清書した本人にすら伝えられていなかったのか? いや、今はそれどころじゃない。議論が変な方向へ向かっている。
「自由度殺してミッションで繋げていくなら、パズルとか、SLGとか、別ジャンルにしたほうが良くないですか?」
「ちょっとまって。じゃあ、このせっかく用意したこのイメージ図も白紙に戻すってこと?」
「必要とあれば、やるべきでしょう。清書した僕が言うのもなんですが、あらゆる可能性を模索すべきかと」
ちょっと……ちょっとまってよ。平衡感覚が崩れ、地面がグラグラと揺れるような感覚を覚えた。少なくとも、アタシの中では目指したい場所は決まっている。そこへたどり着くために皆を頼ったつもりだったのに、ゴール自体が変わるの……?
「大星さん、どう思う? 発案者の意見を聞きたいんだけど?」
会議室内のすべての視線が由良に集中した。
「えっと……」
斧田の言葉は、聞こえ方だけなら正論のようにも聞こえる。けどこれは違うはずだ。ここから一度全てをひっくり返すというのが正しいとは思えないし、何よりアタシ自身が納得できない。
「いいものを作るためにも、広い視野を持って欲しい、大星さん!」
どうすればいい……? なんて言えば?
「……すみません。ちょっと……ちょっとだけ考えさせてください」
そういうのが精一杯だった。
由良の図の清書については問題なかった。ヒエログリフの解読よりも難解な由良のイメージ図を分かりやすい形にブラッシュアップしてくれた。堀部も、斧田版のロードマップを見て、ようやく由良が言いたかったことを理解できた。
問題は、企画そのものに対する関わり方だ。
その日、高野はアナナス本社での会議のため、午後から外出して直帰の予定だった。鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに、由良は大星プランの相談をしていたメンバーを集めた。
堀部と二人だけでの会議室使用すら、猜疑の目を向けてくる高野のことだ。奴の目が届く所で7~8人も人を集めたら、面倒くさい事になりかねない。だからこれまで、個人的な相談という形でしか話を進められていなかったけど、ようやく大人数で検討会を開くことが出来た。
メンバーたちも同じ思いだったようだ。高野さんがいない今なら、とばかりに快く招集に応じてくれた。
検討会はブレスト形式で進めた。由良は自分の企画のコンセプトは明確にしていたけど、それを体現するにはアイデアが不足してると考えていたからだ。
『ブレストは前準備を入念にな。スタート地点の足並みを揃えるのが大切だ』
高野とともにアナナスへ行くため、堀部は出席できなかったのだが、事前にアドバイスしてくれた。それに従って、前日までにひとりひとりに説明して回った。麦のロードマップが良かったのか、検討会の前半は、みんなが思い思いに意見を出してくれた。
雲行きが怪しくなったのは、斧田が挙手してからだ。
「そもそも、これってサンドボックスでやるような事なんですか?」
思ってもない言葉が飛んできた。
「サンドボックスってクエストとかクリア目標とかが無くて、プレイヤーが自由にできるゲームですよね? それって、決まったことを勉強しなきゃいけない小学校の教育と相性悪くないですか?」
「いや、そこは最初はクエスト用意して誘導してやる必要があるんじゃない?」
メンバーの一人が言った。
「じゃあ、サンドボックスじゃないですよねコレ」
束の間、場が沈黙しする。
「今はそんなジャンルの話はよくない? それよりも……」
「いやいや大切でしょ。それでコンセプト変わってきますよ?」
沈黙が良くない流れを作ると感じた別のメンバーが話しを変えようとするが、斧田は即座にそう答えた。嘘でしょ……由良は愕然とする。コンセプトならはっきりしているだろう。それをイメージしてもらうための麦のロードマップだったのに、清書した本人にすら伝えられていなかったのか? いや、今はそれどころじゃない。議論が変な方向へ向かっている。
「自由度殺してミッションで繋げていくなら、パズルとか、SLGとか、別ジャンルにしたほうが良くないですか?」
「ちょっとまって。じゃあ、このせっかく用意したこのイメージ図も白紙に戻すってこと?」
「必要とあれば、やるべきでしょう。清書した僕が言うのもなんですが、あらゆる可能性を模索すべきかと」
ちょっと……ちょっとまってよ。平衡感覚が崩れ、地面がグラグラと揺れるような感覚を覚えた。少なくとも、アタシの中では目指したい場所は決まっている。そこへたどり着くために皆を頼ったつもりだったのに、ゴール自体が変わるの……?
「大星さん、どう思う? 発案者の意見を聞きたいんだけど?」
会議室内のすべての視線が由良に集中した。
「えっと……」
斧田の言葉は、聞こえ方だけなら正論のようにも聞こえる。けどこれは違うはずだ。ここから一度全てをひっくり返すというのが正しいとは思えないし、何よりアタシ自身が納得できない。
「いいものを作るためにも、広い視野を持って欲しい、大星さん!」
どうすればいい……? なんて言えば?
「……すみません。ちょっと……ちょっとだけ考えさせてください」
そういうのが精一杯だった。