その次の日。
「えっと……何コレ?」
昼休みの休憩室。由良は一晩考えた大星プランの修正案を堀部に見せた。すると、彼の眉毛がハの字にねじれた。
「昨日帰ってから考えたんです。麦の例えが長すぎたんじゃないかって。やりたいことを全て言葉で説明すると、どうしても回りくどくなっちゃいますから」
麦を植えてからパンを売るまでの過程と、それぞれで必要となる理科社会家庭科の知識。それをちゃんと説明できないと、ICT教育というこの企画の真意を伝えられない。
けど、長すぎる説明は、イメージする仕様を必要以上に難解で膨大なものに思わせ、聞いてる人間を尻込みさせてるのではないか?
「確かににそうかも知れないな。……で、これは?」
「図にしてみたんです。畑から始まって、パン屋に並ぶまでのロードマップと言った所ですかね」
堀部の持つ紙には、いくつもの丸や四角が並べられ、それらが矢印で結ばれている。左上の植え付けから始まって、矢印をたどっていけば右下のパン屋にゴールする、双六のような図なのだが……
「ゴメン、何がどうなっているのか全然わからん……」
「ええ!? 嘘でしょ。だってホラこれ、ちゃんと畑を耕している所から始まってるじゃないですか」
由良が指差すスタート地点には、○の下に大の字がぶらさがっているような絵が描かれている。いわゆる針金人間って奴だ。その右手には、アルファベットのLを逆さにしたような棒が……
「ああ! これクワか!!」
「どこからどう見てもクワでしょう!?」
由良の致命的な弱点があらわになった。完膚なきまでに絵心がない……。スタート地点の絵の正体が分かったとして、その先の四角や丸の中には更に難解な現代アートが待ち受けていた。
「大星さん、デザイン部の人にお願いしてコレを清書してもらおう……話はそこからだ」
「はぁ……」
由良は釈然としない表情で答えた。けどまぁ、プロのデザイナーに描いてもらった方がイメージしやすくなるのは確かだ。
「それでしたら、この前プレゼンした人の誰かに描いてもらいましょうか?」
「そうだな」
と、その時
「あのー」
二人が座るテーブルに、一人の男が寄ってきた。
「あ、斧田さん、お疲れさまです」
デザイン部の斧田だ。由良の3年先輩の正社員で、塩屋が抜けたあとのフェンリスヴォルフのキャラデザを担当している。
「よかったらその清書、僕がやろうか?」
「へ? 斧田さんが、ですか?」
斧田には、大星プランのプレゼンはしていない。というか、これまであまり接点のなかった社員の一人だった。
「大星さんが面白そうなことやってるって聞いてさ。よかったら加えてくれないかなーって」
「いいんですか? でも、斧田さんキャラデザで忙しいんじゃ?」
「へーきへーき! ほとんど、高野さん御命令通りに手を動かすだけの作業だしさ」
斧田の声にはうんざりだと、いいたげな色が浮かんでいた。
「いい加減、クリエイティブな事したいんだよ。だから図の清書だけでなく、アイデア出しとかも協力するよ!」
「えーっと……」
由良は堀部の顔を見る。
「いや、決めるのは大星さんだよ?」
うん、確かにそうだ。このプランはアタシのものなんだから。決定権はアタシにある。
「わかりました! よろしくお願いします、斧田さん!」
由良は斧田の手をガシッと握った。
「えっと……何コレ?」
昼休みの休憩室。由良は一晩考えた大星プランの修正案を堀部に見せた。すると、彼の眉毛がハの字にねじれた。
「昨日帰ってから考えたんです。麦の例えが長すぎたんじゃないかって。やりたいことを全て言葉で説明すると、どうしても回りくどくなっちゃいますから」
麦を植えてからパンを売るまでの過程と、それぞれで必要となる理科社会家庭科の知識。それをちゃんと説明できないと、ICT教育というこの企画の真意を伝えられない。
けど、長すぎる説明は、イメージする仕様を必要以上に難解で膨大なものに思わせ、聞いてる人間を尻込みさせてるのではないか?
「確かににそうかも知れないな。……で、これは?」
「図にしてみたんです。畑から始まって、パン屋に並ぶまでのロードマップと言った所ですかね」
堀部の持つ紙には、いくつもの丸や四角が並べられ、それらが矢印で結ばれている。左上の植え付けから始まって、矢印をたどっていけば右下のパン屋にゴールする、双六のような図なのだが……
「ゴメン、何がどうなっているのか全然わからん……」
「ええ!? 嘘でしょ。だってホラこれ、ちゃんと畑を耕している所から始まってるじゃないですか」
由良が指差すスタート地点には、○の下に大の字がぶらさがっているような絵が描かれている。いわゆる針金人間って奴だ。その右手には、アルファベットのLを逆さにしたような棒が……
「ああ! これクワか!!」
「どこからどう見てもクワでしょう!?」
由良の致命的な弱点があらわになった。完膚なきまでに絵心がない……。スタート地点の絵の正体が分かったとして、その先の四角や丸の中には更に難解な現代アートが待ち受けていた。
「大星さん、デザイン部の人にお願いしてコレを清書してもらおう……話はそこからだ」
「はぁ……」
由良は釈然としない表情で答えた。けどまぁ、プロのデザイナーに描いてもらった方がイメージしやすくなるのは確かだ。
「それでしたら、この前プレゼンした人の誰かに描いてもらいましょうか?」
「そうだな」
と、その時
「あのー」
二人が座るテーブルに、一人の男が寄ってきた。
「あ、斧田さん、お疲れさまです」
デザイン部の斧田だ。由良の3年先輩の正社員で、塩屋が抜けたあとのフェンリスヴォルフのキャラデザを担当している。
「よかったらその清書、僕がやろうか?」
「へ? 斧田さんが、ですか?」
斧田には、大星プランのプレゼンはしていない。というか、これまであまり接点のなかった社員の一人だった。
「大星さんが面白そうなことやってるって聞いてさ。よかったら加えてくれないかなーって」
「いいんですか? でも、斧田さんキャラデザで忙しいんじゃ?」
「へーきへーき! ほとんど、高野さん御命令通りに手を動かすだけの作業だしさ」
斧田の声にはうんざりだと、いいたげな色が浮かんでいた。
「いい加減、クリエイティブな事したいんだよ。だから図の清書だけでなく、アイデア出しとかも協力するよ!」
「えーっと……」
由良は堀部の顔を見る。
「いや、決めるのは大星さんだよ?」
うん、確かにそうだ。このプランはアタシのものなんだから。決定権はアタシにある。
「わかりました! よろしくお願いします、斧田さん!」
由良は斧田の手をガシッと握った。