「けど、少しは輝くものもあったでしょ?」
「あ、ハイ。それは確かに」

 出てきた意見の全てがネガティブというわけでもない。手応えを感じるようなレスポンスも確かにあったのだ。

『パンが作れるなら果物も欲しいね。ジャムを作りたい』

『水車や風車で発電もできるね。小学生の息子が、最近クリーンエネルギーについて学校で習ってるらしいよ』

 そんな新たなアイデアの種もメモ帳の隅にメモしてある。

「大星さんの言葉から、発展的なイメージが出来たっていう事だ。そうだな……例えるならクリケットだ」
「は?」

 『クリケット』はダーツのルールの一つだ。的の15~20までのエリアと中心部のブルを取り合う、陣取りのようなゲーム。ひとつのエリアを3回マークすると、そこは自陣となって4回目以降は数字と同じだけ得点が入る。けど、相手も同じエリアを3回マークすると、その陣地はクローズされてしまい点を取る事ができなくなる。

「建設的な意見が出る場所は、大星さんがオープンした自陣。そこからは色々な意見が引き出せる。そのエリアをどうやって取ったかを分析するんだ。それを、他のエリアにも応用してより多くの自陣をオープンする!」
「堀部さん……」

 由良は思ったことを率直に堀部にぶつけた。

「例え下手っスね……!」
「んなっ!?」
「言いたい事はわかりますけど、クリケットで例える必要無い気がします」
「うう……」

 堀部の顔が凍りつく。例えを披露している時、ちょっとドヤ顔気味だったのでギャップがたまらない。不躾ながら「かわいいなコイツ」とか思ってしまった。

「ま、まぁ、それはともかく!!」

 照れ隠しのためか、堀部の声が少しだけ大きくなる。

「大切なのはイメージだ。受け手の想像を広げることを意識する。部分的でもそれが出来ているんだから、大星プランはポテンシャルがあるよ。良い部分を少しずつ広げていこう」
「…………」
「なんだよ? なにか言ってよ?」
「堀部さん、本当にプログラマーですか?」

 またしても堀部の顔が固まった。

「さっきからキミ、ちょっとひどいな!」
「いや、なんか考え方が企画職っぽいなーって思ったんで」

 堀部は紛れもなくプログラマーだ。それもベテランの。けどここ数日、企画部のどの先輩よりもプランナーとして有益なことを教えてくれている。

「まぁ、昔ディレクターやってたしな」
「そうだったんですか!?」

 衝撃の事実。

「ほんの一瞬だけどね。憧れてたポストだったから、挑戦したんだ」
「何でやめちゃったんです?」
「身も蓋もなく聞いてくるなキミ……。まぁ、そうだな。単純に向いてなかったって感じかな」

 堀部は手にしているグラスに視線を落としながら言った。

「……その、アタシは向いてると思います?」
「見どころはあるよ。今みたいに何でもズケズケ聞けるのは強みだし、打倒高野を目指して動いてるのは凄いと思う。行動力は何よりも重要な武器だ」
「そうは言っても、アタシだって堀部さんの焚き付けがなかったら動いてませんよ?」
「動ける時点で凄いよ。 なかなか出来ることじゃない。あの環境なら尚更ね」