「もっと早く気づけばよかった」

 おばあちゃんのベッドのそばに行く。
 いつの間にか増えているシワ、腕には点滴のあとが内出血を作っている。

「おばあちゃん、私が死んだこと知っているのかな……」
「いや、知らない」

 クロの声に視界が潤んだ。

「おばあちゃん、知ったらきっと悲しむよね。かわいそう……」

 熱い涙が頬を伝った。
 おばあちゃんだけじゃない、私の死により、たくさんの人を悲しませてしまった。
 みんなの気持ちを考えるほどに涙はどんどんあふれてくる。

「なあ、七海」
「……うん」
「前に〝本当の涙〟の話をしたのを覚えているか?」
「ああ、有希子さんの未練解消のときだよね?」

 涙を拭いながら答えると、クロはそうだというふうにうなずいた。

「お前はまだ本当の涙を知らない」
「こんなに悲しいのに?」

 洟をすすって尋ねた。本当の涙ってなんだろう?

「でも、前までは全然泣けなかったんだよ。未練探しをはじめてからは一生分泣いた気がしているのに」

 ずっと泣けない自分がいた。最近は悲しいことばかりで、勝手に涙が出るようになっている。
 そんな自分に少しホッとしていたのに、「違う」とクロはまた否定した。

「七海は、誰かのために泣いているだけだ。愛梨や侑弥、そしてこの人のことが心配で泣いている。本当の涙というのは、自分のために泣くことだ」
「自分のために……?」

 言われて気づく。
 この一カ月半、泣くときはいつも目の前にいる人の気持ちに同化していた。

「人のために泣けることはすばらしいことだ。だけど、もっと自分のために泣けるようになれ。それが、本当の未練を見つける手がかりになるはずだ」

 不思議だった。クロの言葉にすんなり納得している自分がいた。
 自分のために泣くなんて考えたこともなかった。

「クロ、ありがとう。少しだけスッキリした気がする」
「な……。別に、たいしたことは言っていない」

 口に拳を当ててそっぽを向いたクロが、
「ちゃんとお別れをしろ」
 そう言って、足早に部屋を出ていった。

 照れているのかな……。
 クロは自分で感情がない、なんて言っていたけれど、本当はやさしい人だと思った。