総合病院の受付カウンターそばにあるソファで、さっきから行き交う人を眺めている。

 名札をつけたスタッフは早歩きで通り過ぎ、お見舞いに来た人はうつむき加減で歩いていく。
 おばあちゃんのお見舞いに来たときの私もそうだった。入り口の自動ドアが開くと、病室に着くまで無意識に息を潜めていたっけ。

 隣ではシロが珍しそうにキョロキョロと病院内を眺めている。

「なんか広いねぇ。僕の知っている病院とはずいぶん違う」
「そう?」
「病院って、怖いところでしょう? いつも混んでてたくさんの人がいて、先生は無理やり注射をする、みたいな」

 ブルブル体を震わせるシロに、ようやく少し笑えた。きっと元気づけようとしているんだな。
 シロは本当にやさしいのに、反面クロは……。

「なんだ?」

 向かい側のソファで足を組んでいるクロがギロッと見てきたので、
「なんでもない」
 と答えておいた。

 侑弥との未練解消を終えてもまだ、私はあっちの世界に行けないまま。
 結局、侑弥も本当の未練解消の相手じゃなかったんだ。
 いくら考えても思いつかない本当の未練。残る選択肢は、入院しているおばあちゃんくらいなもの。

 総合病院に来たのはいいけれど、体が重くて休憩していたところだ。

「そろそろ行かないと日が暮れるぞ」

 立ちあがるクロに反抗する元気もなく、起きあがった。
 すぐにシロが体を支えてくれる。

「大丈夫? 今日はもうやめたら?」

「アホ」とクロがすかさず鋭く言った。

「あと五日しかないんだぞ。未練解消できなかったらどうするんだ」
「でも……」

 不安げなシロが、
「ねえ、本当におばあちゃんに会うの?」
 私に尋ねてきたのでうなずく。

「おばあちゃんには会いたいし。それに、本当の未練がなにかも知りたいから」

 地縛霊になれば大切な人たちに迷惑をかけてしまう。それだけは絶対に嫌だ。

「シロ、お前はさっさと仕事に行け」
「……僕も行きたい」
「ダメだ。そういう約束だろ?」

 有無を言わさずクロは私の手を引っ張って歩きだす。