「でも俺のほうが前から好きだったと思う」

 突然、侑弥がそんなことを言った。

「え、それはないよ」
「あるって!」
「ない」

 ちゃんと訂正しておかないといけない。最初に好きになったのが私なのは間違いないこと。
 けれど、侑弥は「だって」と目線を逸らした。

「はじめて会った日からだし」
「……え?」
「だからうまく話せなくなったんだよ。七海はあまりおしゃべりじゃないし、嫌われたくなくってさ……」

 ポリポリと頭をかきながら侑弥はボソボソと言った。
 じゃあ、私たちはとっくに両想いだったんだ……。
 何度も悩んで、会うとうれしくて、ひとりになるとさみしい毎日を彼も過ごしていたんだ。

「もっと早く告白すればよかったのにごめんな」
「ううん、私こそごめん」

 でもきっと、これでよかったんだと思えた。侑弥のことで悩んだ毎日は苦しかったけれど、両想いになっていたなら自分の死がもっと受け入れられなかったと思う。

 そこまで考えて、ふと気づいた。

「これからも夕日仲間、って言ったよね? 侑弥、引っ越しをするんでしょう?」

 六月からは東京で新しい高校に行くはずじゃ……。

「いや、結局ここに残ることにしたんだ」

 あっさりとそう言う彼に青ざめる。もしかして、私のために……。

「大丈夫」

 心配を先読みしたかのように侑弥は口を三日月にして笑った。

「母親がブチ切れてさあ、あのあと大変だったんだよ。父親に『あなただけ行ってください!』って言い出してさあ。なんかずっと我慢してたみたいで、あんまり怒ったところ見たことなかったからびっくりしたよ」
「そ、そうなんだ……」
「それで、俺が大学に行ったら、母親は東京に戻るってことになったんだよ」

 だとしたら、侑弥はこの町に残ってくれる。
 でももう、私はいない。私がいない毎日を侑弥は過ごしていくんだ……。
 それは彼に新たな悲しみを与えることになってしまう。

 急に息が詰まる感覚に襲われ、次に口を開いときには瞳から涙がこぼれていた。
 意図しない涙に自分でも驚いてしまう。

「え、どうかした? 泣かないで」

 侑弥の声が届いても、涙が止まらない。
 誰かが私のせいで悲しくなることが、こんなにもつらい。